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	<title>NOVEL - my glow</title>
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	<description>黒バス二次創作中心です。腐向けの作品が多いので閲覧注意。</description>
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		<title>⑨</title>

		<description>拝啓　お母様へ
　
　こちらはもう雪の…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 拝啓　お母様へ
　
　こちらはもう雪の降る季節となっています。
　お母様の居る所はどうでしょうか？　雪は降りましたか？

　僕は初めて友人というものが出来ました。
　温かい笑顔の持ち主で、冬に咲くヒマワリのように、僕に勇気を与えてくれる人です。
　悴む手を温めてくれると友人は僕にとってとても愛おしくて、お母様と同じくらい大切に思っています。

　僕を負かせた彼、お母様が勝負を託した彼は馬鹿みたいに優しくて、その優しさ故の強さを持っています。
　僕はまだ、お母様や彼のような強さはまだ持っていません。
　ですが、彼の隣で芽を出した僕は、今も成長途中です。
　やっと子葉が出た位には成長する事が出来ました。
　ゆっくりですけど、僕は僕なりに育っていっているつもりです。
　ですから、この先、ずっと先になってしまうかもしれませんが、もし僕が彼の隣で花を咲かせる事が出来た時には、お母様もまた逢いに来て下さいね。
　あの庭園で、僕はずっと待っています……――

敬具
　  ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:30:32+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>⑧</title>

		<description>「……泣いてるの？」

　昔より少し低く…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「……泣いてるの？」

　昔より少し低くなった声が僕の頭上に降り注ぐ。

　チームメイトにすら何も言わず、結局僕はお母様との思い出の詰まったこの庭園に戻ってしまった。一人になる時間が欲しくて、少し寂しげな冬の庭園でしゃがみ込む、僕の背中は小さくて弱者の背中そのものだった。こんな姿誰かに見られたらそれこそ恥ずかしい、だからここまで逃げてきた。

　なのに、何故？　こいつはいつもいつも、僕の弱い所を見つけてしまうんだ？

「別に……泣くって普通の事だよ？　隠す必要無いじゃん」
「……」
「俺もね、今日ずっと待ち望んでた瞬間に出会えて、嬉しくて泣いちゃったんだ。だから、泣く事なんて普通だよ。日常に埋もれてしまった特別な感情に出会う、そんな小さな事で涙は生まれるものだから」
「僕は、分からない。自分が今何を考えているのかが。どうしてこんなに涙が止まらないのか……。敗北の痛みは周りの人達みたいに自分の糧と変える事が出来るのだと思う。でも、何かが引っかかるんだ。何かを、僕は何かを失ったような気がして……――」

　自分でも何を言っているのか今一つ分からない。
　ただ、お母様が亡くなった時以上に、僕の心はどうしようもない喪失感で埋め尽くされていた。

「赤司君のお母さんとの勝負が終わってしまって、自分とお母さんを繋ぐものが何も無くなった……って思ってる？」

　真っ直ぐな瞳が僕を捕らえる。
　お母様と僕を繋いでいた、この賭け。それが終わってしまった事を嘆いて、僕は今こんなに心が空っぽなのだろうか？

「そう、かもしれないな……。勝ち続けている限り、お母様は僕の事を見てくれるような気がしていた。だって、僕が負けてしまっても、お母様の、願いは……、もう分からないから、叶える事も出来ない……」
「……そんな事ないよ。赤司君はあの人の願いをきっと叶えられる」
「どうして……」
「俺が何で君のお母さんの事を知っていたか、ってこの前聞いたよね」
「ああ……」
「俺の家さ、転勤が多くてさ、東京に住んでたのは赤司君に会った小6の春から夏休みまでだけだったんだよ。あとは四国とか九州とか、北は北海道まで、色んなところを転々としてたんだ。それで、君のお母様に会ったのは、小５の冬だったんだ。ただの旅行で東京に来てた時だよ」
「……数日前に僕が何で会いに来なかったんだって言ってしまったけれど……、何か物凄く的違いな事言ってたんだな……悪かった」

　普通に考えれば、ちょっとの時間会っただけの奴の為に遠くからわざわざ来る事があるはずがないし、むしろ来ようと思う事すらなくて当然だ。

「いや、会いに行こうと何度も思ったんだよ。でも、さ、中学生の行動範囲なんて限られているし、高校生と違って稼ぐ術すら無いからね……。難しかった」
「……もしあの時言ってくれたら僕から会いに行けたかもしれないのに」
「うん、あの後ね、凄く後悔した。住所とか電話番号とか、何かしら渡せれば良かったのに。結局君は僕の名前すら知らないままだって気づいて……」
「まあいい……。東京に戻って来たのは高校からか？　また両親の転勤で？」
「いや、俺は今一人暮らし」
「君のような男が一人暮らしか。親もさぞかし心配しただろうに」
「うん、物凄く反対されたよ。でも、東京にはどうしても会いたい奴がいたからさ……」

　苦笑する彼から白い息が零れる。
　もし、かして、いや、まさか……――

「あの、えと、物凄く恥ずかしい事を聞くが、東京に来たのって……」
「うん、君が居ると思ったから」
「……」
「……」
「……馬鹿じゃないのかっ！」
「えええー……、そんなに怒鳴らなくていいじゃん。その位会いたかったんだってー」
「そういう問題じゃないっ！　僕が他県に行ってる可能性をどうして考えなかった？」
「いや、だって、君が居なかったらこの花に水を与える人が居なくなると思ってたから……」

　あ……。
　確かにここを離れる事は惜しく思っていたけれど、そういえばこの花は今誰が世話しているのだろう。

　たまにこの地に戻ることがあるけれど、いつだって花は美しく咲いている。

「ここはお母様が任せられていた場所で、お父様もここについては干渉する事が無かった。お母様が亡くなった後は僕が世話をしていたけれど……」
「春に、ここに訪れたら、花達が今にも枯れそうになっていたから、勝手だという自覚はあったけれどど、それからずっと水やりに来てたんだ。最初の頃はここに来れば赤司君に会えるんじゃないかっていう思いもあったんだけれど、赤司君が京都に行ったって黒子に聞いてからは、この花は俺が守らなきゃっていう謎の使命感を感じてさ……」
「ごめん……。あと、この花達……、見捨てないでくれてありがとう。お母様が守っていた命、枯れないで本当に良かった」

　ずっと側に居てくれた花達。元気で居る術を残してくれて、本当に、良かった。

「ううん、ここの花々は赤司君との、あと君のお母さんとの思い出があるから。放っておけなかっただけだから」
「……お母様との？」

　お母様はあまり外に出ない人だった。考えてみれば、お母様外の誰かに会えるとしたら、ここか屋敷内の他ない。

「俺、さっき言ったようにさ小5の時旅行でディブ二―ランド行って、そこでお母さんたちと離れてちょっと探検してたらいつの間にか外に出ちゃっててさ……。それで迷いに迷った結果、いつの間にかここに辿りついてしまったの。泣きべそかく俺に手を差し伸べてくれたのが、たまたま運良くそこに居た君のお母さんだったって訳」
「基本的にお母様がここに来る時は僕と一緒なはずなのだが……」
「征十郎は今ピアノのコンクールに出掛けているの……とか言ってた気がする……」
「そうか……。僕が居ない時でもここに来る事はあったんだな……」
「でも寂しそうにしてたよ。本当はコンクール見に行きたかったんだけれど……って」
「……うん」

　あの頃、お母様は庭園と屋敷内以外を勝手に出歩くことを禁止されていた。今思えば納得なのだけれど、僕はそれがお父様による束縛行為だと思っていたから……、僕がお父様に不信感を抱くようになったのはその頃かもしれない。

「あの人に会って、というより人間に会えて、とりあえず俺はホッとしたんだ。俺は泣きじゃくりながらどうしてここに来てしまったかって事を拙い言葉で話したよ。でも、君のお母さんったら聞き終わるなり、『分かった、もう大丈夫、だから私とお話ししましょう？』なんて言うの。何が大丈夫なんだって感じだったんだけれどね……はは」
　
　でも、その後何故か大きな黒い車が来て、宿泊先のホテルに連れていかれ両親に再会出来た、と彼は語った。お母様は少なからず赤司家の人間だ。考えなしに見えて、しれっと手配をしていたのだろう。その迅速さに幼い彼は気付けなかったというだけの話だ。

「彼女の口から聞ける話は君の話ばかりだったよ。いや、むしろ君の話しかしていなかったかも。君がどんなに可愛くて、どんなにガンバリ屋さんで、どんなに寂しがり屋で、どんなに強い子かって……。

　それで君との賭けの事も聞いたんだ。そして彼女は言った

『私はもうすぐこの勝負を続けられなくなる。長くてあと1年かな……。だけど、あの子は自分にも他人にも優しくて、厳しい子だから、続行不可能が負けだって事認めないかもしれない。
　だから、私が勝負を続けられなくなった時は貴方が代わりにあの子と勝負をしてあげて。それでもし貴方勝った時はあの子に言ってあげて、゛どんな場所で芽を出してもそこで花を咲かせる強さを持って、これからもそうやって生きてほしい″って……、私の願いはそれだけよ』

って……」

　それは、冬に咲くヒマワリのように、終わりが来るまでここで強く生きたお母様らしい願いだった。

「お母様との別れから、勝負の終わりから、逃げていた僕はまだお母様の願いを叶えられていない。これじゃお母様にも笑われてしまうな」
「そうだね、、きっと何処かで笑っていると思うよ。でもね赤司君、負けをしった人は強くなれるよ。だから、君はあの人の願いを、もう叶え始めていると思う。それで、君のお母様は嬉しいって笑ってくれているんだ」
「そうだと、いいな……」

　12月最後の冷たい風が僕の肌を掠める。寒さと寂しさは似ているとずっと思っていたけれど、今の僕は何処か清々しさを感じていた。まるで、スノードロップに色を与えられた冷たい雪のように。

「降旗」
「ん？」
「僕はまだお前の願いを聞いていない」
「俺はあくまでもあの人の代理だよ？　俺は誠凛高校一年の降旗光樹。誠凛バスケットボールチームの一員として、君達を倒せた、それだけでお腹いっぱいなんだ」
「でも、僕は君から、色々と貰ってしまったから、何か返せる物があったら返したいんだ」

　お前から貰ったヒマワリはいつも僕に元気をくれる。
　一番居てほしい時に側に居てくれたお前の存在がどれだけ大きかったのか、その大きさを計る物差しは僕しか持っていないのだから、お前には分からないのだろう。

　僕の目は彼の目を射とめて離さない。
　気押された彼は頬をポリポリと掻いて、少し恥ずかしそうにはにかみながら言った。

「……、じゃあ、俺の友達になって欲しいな」

　平凡な彼らしい安上がりな願いに、僕は笑顔で答えた。

「……――」 ]]>
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		<dc:date>2013-12-22T21:29:05+09:00</dc:date>
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		<title>⑦</title>

		<description>　WC最終日、誠凛は本当に決勝まで勝ちあ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 　WC最終日、誠凛は本当に決勝まで勝ちあがっていた。
　他のキセキを負かせたのがテツヤ達のチームだったというのは驚きだったけれど、誰が勝ちあがって来ようと僕はいつも通り、相手に負けを与えるだけだった。……なのに……。

　試合終了の笛が体育館中に響き渡る。

　湧きあがる歓声、汗の落ちたコートに零れ落ちる誰かの涙、緊張の解けた笑顔……――

　その全てが僕に告げる。明確な終わりを。
　夢から覚めたのか、それとも夢を見始めたのか分からない。そんな感覚。
　僕は茫然とそこに立ち尽くしていた。仲間の声にも答える事が出来ないまま……。

　人生で初めての敗北。

　初めての敗北は少し塩辛い汗の味だった。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:28:46+09:00</dc:date>
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		<title>⑥</title>

		<description>
　外に出ると月が雲に隠されていて、で…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
　外に出ると月が雲に隠されていて、でも騒がしいクリスマスの街は例年通り明るかった。

「送って行くよ」
「いや、僕は女じゃないのだから、そういう気遣いはしなくていい」
「えー……、でも赤司君は女の子みたいに可愛いしさー……」
「男相手に可愛いなんて冗談でも使うな……」
「別に褒めてるんだからいいじゃんー？　なんというかさ、紳士代表としては？こんな夜道に赤司君見たいに可愛い子歩かせる訳にはいかないみたいな？」
「仮に、仮にも、君みたいなストーカーまがいが僕に近づいてきたとしても、僕は護身術を身につけているから大丈夫だ。少なくとも君よりかは丈夫に鍛えられている」
「ちぇー、そう言われちゃったら赤司君と居る理由もう作れないじゃん。しょうがないから諦めて帰りますよー……。って、あ、そうだ、忘れてた」
「？」
「はい、これ」

　彼は綺麗な紙で包装された箱を僕に投げ渡した。反射的に拾ったものの、何を考えているか分からない男が寄こしたものだ。用心するに越した事は無い。

「何かすんげえ酷い事思われている気がするけど……、まあいいや。黒子が3日前にさ、『そういえば赤司君の誕生日です』って思い出したかのように言ってたからさ。手ぶらで会いに行くのもどうかと思ってた所だったし。大したものじゃないから、気に入らなかったら捨てていいから」

　困ったようにはにかんで、彼は足早に明るい街の中に溶けていった。

　人に物を貰うという事が久しぶり過ぎてどう言っていいのか分からなかったが……、普通に考えれば受け取るべきではなかった。そもそも、こっちは面識の無いというのに誕生日だったからといってホイホイと物を貰っては、相手に何を返せば良いのかを考えなくてはならない。

　別に彼の言う通り捨てる事は無いが……、一応中身を確認だけしといて、またWCが終わった控室にでも置いておけば彼も察するだろう。

　開けた事が分からないように丁寧に包装を解いて箱を開くと、そこにはネックレスが入っていた。いかにも女物の、花の形をかたどった……、ヒマワリか……、季節感が無いのかあの男には。

「……あ」

　――征十郎、冬に咲くヒマワリは凄いわね。……私もこんな風になりたかったわ。

　いつかの大切な人の言葉がフラッシュバックのように頭の中で囁く。
　忘れかけていた思い出が僕の頭を走馬灯のように駆けて、懐かしい気持ちで心が温かさを帯びるように感じた。

　……ああ、そうか、そういう事か……。

　彼の言ってる事がジグゾーパズルのように綺麗に繋がった。
　やっぱりアイツは馬鹿だ。名前も声も顔もほとんど知らないけれど、忘れてはいない、ちゃんと覚えてる、僕は僕じゃないけれどそれでも君の事だけは、ちゃんと覚えてる。弱虫な僕の事を知ってしまった君の事、忘れるなんてありえないから。

　気づけば僕は街明かりの方を駆けていた。もちろん、あいつを追いかける為に。

　冷たい風が肌を掠めるけれど、心の中に生まれた温かい気持ちは冷めないままで。熱は一層増すばかりだった。それでも、こんなに走って追いかけて、どうするの？　何を言うの？　そんな冷めた声が何処からか聞こえるような気がして、耳を塞ぐ変わりに目を瞑ると、曲がり角で人にぶつかってしまった。

「ご、めんなさ……って……え」

　もう十分前に足早と去って行ったはずであろう男が100ｍ程も離れていない曲がり角に何故か立っていた。

「なん、で……」
「赤司君だったら絶対に追いかけてくるだろうなあって思ってたから」

　ムカつく程の笑顔でそう告げられたから、とりあえず蹴りをひとつ入れると、彼はみぞおちだったのかその場で倒れ込んだ。

「も、ちょ、手加減……、今の何で俺蹴られたの……」
「何で、って分からないのか？」

　周りには残業を終えた伯父さん達が行き交わしていて、ヘンなものを見るかのように僕達を見ていたり、何もなかったように過ぎ去って行ったりするけれど、僕は気にせず、倒れ込んだ降旗の目を見て訴えた。

「4年間、待ってた。お前の事、あの庭園でずっと……！　〝ヒマワリを見て俺の事を思い出して″なんて恥ずかしい事言っておきながら、お前はあれから一度も僕の所に来すらしなかった！！　なのに、なのに、イキナリ4年経ってノコノコやってこられたって、分かる訳ないじゃないか！　だって、君の名前すらあの時は知らなかったというのに！」

　いつの間にか降りだした雪が彼の肌を少しずつ濡らしていく。
　鼻の奥がツンとして痛いのはきっと寒さの所為。

「……俺は赤司君が赤司君だって分かったよ？」
「僕と君を一緒にしないでくれ。君みたいなモブ顔を4年前に少し見たちっちゃいモブの顔と重ねるという事の難しさをもっと知るべきだ」
「えーっと……、ごめん？　地味な顔で……。あと、……ありがとう」
「何が」
「俺の事想い出してくれて」
「……思い出したくなんてなかった！」
「意地っ張り、相変わらずだね」
「煩いっ！　黙れ！」

　彼は起き上がって僕の目を見て笑いかける。「はいはい」と諭すように優しい声を添えて。
　4年前、僕はコイツの顔を良く見る事さえ出来なかったけれど、この顔は覚えてる。全てを溶かしてしまうようなこの笑い顔。
　
「話せ。お前が何故ずっと会いに来なかったのか、そもそも何故お前は僕の事を昔知っていたのか。何故お母様の事まで知っていたのか……――、お前には聞きたい事がいっぱいあったから」
「確かに話さないといけないね、そろそろ。別に隠していた訳ではないけれど、赤司君は一つ忘れかけてるよ」
「は……？」
「僕は誠凛高校バスケットボールチームの降旗光樹。君は洛山高校のキャプテン赤司征十郎、でしょ？
つまり敵だ」
「そんなの忘れてなんか、ないけど……」
「少なくても、俺が君に決勝戦で勝つまでは俺は君と敵である事を望むよ。それに、僕は託されているからね」

「……君と、君のお母様との勝負を」

　何を考えているのか分からなかった彼の眼には、決意のような色が見えて、離さないように僕の目をしっかりと捉えていた。

「はっ……、どういう事だ？」
「それも僕が勝ってから教えるよ」
「ふざけるな！　あれは、僕とお母様の……、そしてお母様は病気に負けた、だから僕は……」

　僕の勝ちで幕を下ろしたと思っていた、あの賭けは……。

「まだ続いてる、というか、続けているのは君でしょ？」
「は、何を言ってるんだ？　僕はとっくにお母様の負けを認めている」
「じゃあ、どうして君はずっと勝ち続けているの？　どうして負けを恐れているの？」
「それは！……、それは……」

　確信をつくようなその言葉に僕は返す余地もなかった。
　別にお母様との勝負の事だけを考えて勝ち続けている訳ではない。けれど……、勝利を手にするたびに何処かお母様との勝負の事が僕の胸を閊えさせた。
　
「『私が負ける時はね、征十郎の大切なものを奪ってしまうから……、何でもしてあげるって言ったのにこんな風に終わったんじゃあの子が可哀想でしょう？』　……彼女はそう言って俺に勝負を預けたんだ」

　あの人の言いそうな事だ。勝負事をしかけるのはいつだって自分の為ではなく相手の為で、結局勝ち負けもそれに左右される。
　勝負の行方を託したのがこんな凡人っていうのは笑えるけど、お母様が委ねた奴だ。責任持って僕が負けさせればいいだけの話だ。

「俺は平凡で金も無いから赤司君にしてあげられる事は少ないけれど、どうせ俺が勝つんだから、そこは大丈夫でしょ？　もちろん、俺が勝ったら俺の言う事を何でも聞いてね？」
「……ハッ……、何を言っているんだか。全てに正しい僕は、お母様との勝負、いや君との勝負にも必ず勝ってみせるよ」
「ふふ、君ならそう言うと思っていた。じゃあ決勝戦楽しみにしてるから。あ、決勝戦の前に負けないでね？」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿」

　長くて短い僕達の関係は、この数日間だけ敵同士になってしまうけれど、こうして会話をしていると、まるで古くからの友人のようで、胸をほっとさせた。そもそも昔ながらの友人なんて僕には居ないのだけれども。

　雪の降る外でこれ以上居ても風邪ひくと言って、僕と彼はその場を後にした。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:28:14+09:00</dc:date>
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		<title>⑤</title>

		<description>彼はカラオケボックスに入るなり、おもむ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 彼はカラオケボックスに入るなり、おもむろに話をしだした。いや、店に入る前もしこたま話していたが。
　テツヤの事、誠凛の事、バスケの事、学校の事……。
　そのどれもが普通の高校生と何ら変わりがない他愛の無い話ばかりで、余計にこの男のしたい事が分からなくなった。
　
「……おい、降旗」
「へっ、何？」

　マシンガンのように楽しくトークをしていた降旗はやっと僕の目を見た。
　狂ったラジオのように話していたのに、彼はこっちを一度も見ていなくて、……だから僕は彼の手が小刻みに震えてるのに気付いたのだ。

「君は僕の何だ？」

　単刀直入。
　彼は動揺の顔も見せずに、こめかみに手をやって唸るように考え込んだ。そして一言。

「ストーカー？かな　ってちょっとやめて！！携帯に手かけないでっ、冗談だから！」
「いや、強ち間違いじゃないのかもしれないと思って……。何と言うか、こっちは君の事を全く知らないと言うのに相手には知られているというのは、いささか気分の悪いんだ」
「知らないなら知っていけばいいんじゃない？」
「いや、君にそこまで興味を抱いてる訳ではない。ただ一方的に知られてるのが嫌だと言っているんだ」
「ほうほう、だからお互いに知り合いたいと？」
「もう、勝手に解釈してくれ……」
　
　もうやだ、コイツ。何かに脅えているのかと思えば、またバカみたいな冗談を言ってくるし、本心が迷子になってるようにしか思えない。

「んー、あー、そう言えば、俺、自己紹介すらしてなかったっけな？　俺は降旗光樹っていうんだー」
「それくらいは知っている……」
「ああ、そういえば、さっきも名前で呼んでくれてたっけ？　えーっと、誕生日は11月8日、好きなタイプはクッキー作れる子、あと好きな音楽はモモクｒ」
「どうでもいい！　ものすごくどうでもいい！　だから、僕が聞きたいのは、何故君が僕の事を知っているのかという事であって、君自身には微塵の興味も感じていないっ！」

　僕がそう言い切ると、流石の彼も困ったように眉を潜めた。

「困ったな―……」
「こっちの台詞だ馬鹿」
「俺にとって想定外だったんだ」
「何が？」
「俺は、君が俺の事覚えてるだろうと思って、一か八か君がホテルから出てくるのを待っていたんだ」
「はあ……」

　覚えてるも何も、僕はこんな男知らない。こんな平凡を代名詞として使っていいほどに、何処にも秀でた所がない、つまらない人間なんて。

「……でも君は覚えていなかった。だから、頭真っ白になって、でもここで離れたら俺と君はまた話す機会なんてもうないでしょ？だから、無理矢理連れだしたんだ。ごめんね、制服でホテルを出たって事は、お父さんの所にでも顔出しに行こうとしてたんでしょ？」
「……ああ、そうだけれど……、別に大してその事は重要じゃなかったから大丈夫だ」

　本当は行きたくなかったから、こいつが連れだしてくれた時は安堵する自分が居た。それなのに謝られているというのは何だか後ろめたさを感じるが、その事については黙っておこう。

「帰ろうか、赤司君」
「え」
「もうご飯も食べ終わったし、今からだったら未だお父さんの所にも行ける時間だし、あ、お金は俺が持つよ」
「あ、ああ。ありがとう」

　結局、僕は食事をして降旗のくだらない話を聞いたというだけで、この店を後にした。掴まれていた手を急に放されたような気がして、僕は急に我に返らされたように冷めていた。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:27:50+09:00</dc:date>
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		<title>④</title>

		<description>「……君か」
　
　三日目まで、洛山は試…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「……君か」
　
　三日目まで、洛山は試合が無い。
　今から強豪校をチェックする必要なんて無いと思ったので、東京都内の体育施設を前もって借りていた。そういう事情によって、今日も明日もいつも通りの練習。

　8時にホテルに帰り、シャワーを浴びて、僕は持ってきていた制服に着替えた。
　目の前の男に会ったのは、ホテルの外に出た時だった。
　数か月家に戻っていないから、これから父に挨拶をしに行こうと思っていたのだ。

「こんばんは」
「……何か用か？」

　そんな冷たい顔しないでよ、と彼は笑いながら言う。
　まるで僕がホテルを出る事を知っていたかのように待ち構えていた男に対して、温和な態度を取れという方がどうかしている。

「何故、僕がここに泊っている事を知っていた？」
「んー、さぁー、何でだろうねー？」

　調べれば分かる事であり、逆に言うと調べなければ分からない事である。何を企んでいるのかは分からないが、仮にも赤司財閥の一人息子だ。平凡な顔した高校生であれど、用心するに越した事は無い。

「僕は忙しいんだ。用があるなら手短にして欲しい」
「……そう言われると、用があったかどうかを思い出す所から始めなくちゃいけなくなるんだけど……」
「は……？　用も無いのにこんな所に居たのか？　そんな訳が無いだろ」
「いやあ、昼に君の顔を見たら嬉しくて……、頭より先に足が動いた」

　訳が分からない……。コイツ馬鹿じゃないのか……、こんな奴がWCまで勝ち残っているとは……、まあどうせレギュラーではないのだろうから、試合する事はないと思うけど。そんな奴が僕の所まで尋ねてくるなんて……、もしかして、

「……新手のストーカーか何かか？」
「いやいやいやいやいや、それは違うよ」
「……本当か？　中学時代よくつけられていたからな……、あれが君だったのかなんていう錯覚まで覚えたのだが」

　しかしあれは40代の男だったような。こんな小さいのにつけられて自分で処理出来ないような僕ではないし。

「マジで違うから、ストーカー扱いはやめてください。何が楽しくて君のストーカーなんて……」
「じゃあ、何が楽しくて君は今ここに居るんだ？」
「んー……、君と居られる事が楽しくて？　いや、そんなに楽しい訳じゃないけど」
「どっちだ……。僕は全然楽しくない」

　何なんだ、こいつは。自由奔放な人間とはこれまで何度も相手してきた。（大輝とか大輝とか大輝とか）
　でも、こいつの自由さは何かが違う。自由奔放？いや、チャランポランと言った方が極めて正しいかもしれない。でも、それが全て『計算』のように見えるのが彼の恐ろしい所だ。
　つまり、僕が何を考えているのかを向こうは分かっているように思えるが、自分は向こうの考えている事が分からない。
　そんな人、お母様位だと思っていたのに。何故かこのちゃらんぽらんに上に立たれているような気がして、癇に障る。

「んー……、ねえ、今暇？」
「君は僕が暇を持て余して外に出てきたと思っているのか？」
「んー、わざわざ制服で出てきた所見るとそれは違うように思えるけどさー」
「ならわざわざ聞くな。それに君と僕は今、敵同士なんだぞ？　一秒も惜しまずに練習しなくていいのか？」
「残念ながら俺は凡人なので、休養を摂らなくちゃ生きていけないんです―。バスケは本気、だからこそ息抜きっていうのが必要になってくる」
「……まあ、確かにそれは一理あるが」

　彼は本気でバスケに打ちこんでいるのだろう。ただのバスケ好きならば、バスケ自体が何かの息抜きになる。本気でバスケに打ちこんでいるからこそ、バスケに対しての息抜きが必要になるという事だ。

「って事で君だって息抜きが必要でしょ？　俺と遊ぼうよ」
「その理屈は通らない。僕には息抜きなんて必要ないし、君と違って暇という概念が存在しない」
「息抜きは必要だよー。息抜きしないからそんな頭の堅い人間になるんだよー」
「ははっ、頭がきれるとは良く言われるが、堅いなどと言われたのは初めてだな。お前は僕と違ってゆるっゆるだなと皮肉でも返しとけばいいのか？」
「まー、確かにユルユルだけれどー……。緩くなければこんな衝動的に君の元に飛んでくる事もないだろうしねー」
「分かってるじゃないか。自分の頭の緩さ具合を知って、さっさと家に帰れ、何時だと思っているんだ」
「んー、9時」

　彼はスマホの画面を光らせて、時間を確認した。時計すら持ってないのか。それより、ほぼ手ぶらに見えるのだが……。

「9時だったらー、ゲーセンとかカラオケなら未だ空いてるよ―？　ご飯終わってないならファミレスとかどうー？」
「……台詞がナンパにしか思えない」
「うん、ナンパしてる」
「……呆れた」
「へへー、呆れられたー」

　もうなんなんだこいつは……、敦も緩いがこいつに至っては確信的な緩さ？と言えばいいのか。もう、付き合うのが面倒くさくなる。なのに、向こうのペースに無理矢理合わせられるのだから、溜まったものじゃない。

「……今日だけだぞ」
「え、まじで？　遊んでくれるの？」
「遊ばない、食事だけ。お腹すいているんだ」
「じゃあ、カラオケ行こう！」
「じゃあの意味が分からない！！」
「いやいや、カラオケだけど超美味い飯出してくれるとこがあるから！　まあ高級気取りな赤司君の口に合うかどうかは分かんないけどねー」
「どうせお前との飯なんてまずいだけだから、安くで済むなら安くの方がいい」
「何気に俺酷い事言われてる？！」
「……」 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:27:21+09:00</dc:date>
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		<title>③</title>

		<description>　何故、僕はこんな風にしか彼らと接する…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 　何故、僕はこんな風にしか彼らと接する事が出来なくなったのだろう？

「また会えて嬉しいよ」

　在り来たりの言葉に込める心なんて無くて。
　それなのに何処かで泣きそうになる自分が居る。
　彼らが僕を見る目は、いつからこんなものになったのだろう？
　僕はいつから彼らをこんな風に見るようになったのだろう？

　そんな自分に動揺してたからかもしれない。
　僕はそこに居た少年に冷たい声で告げた。

「……君は帰ってくれるかな？」

　キセキの世代ではない、いかにも弱そうな男。おそらくテツヤのチームメイトだろう。
　僕が冷たく言い放つと、彼は目に涙を溜めて小刻みに震えているようだった。

　どうやら脅えているらしい……と思ったのはほんの少しの事。
　僕の目は直ぐに彼の感情を捉えた。

　……この状況で、笑っている？

　彼が笑いを堪えている事に気付いてしまった僕は、何がおかしいのかとまた当たりそうになったが、それを阻止したのが、火神大我とかいうテツヤの新しい光。
　結局彼に対する問いただしたい気持ちはどっかに消えかけて、僕はまあ……色々やらかしたのだと思う。

　あいつらが去る時、さっきの弱男と目があった。
　彼はこっちを見て何か言いたさげにするから、思わず僕は顔を顰めた。
　
　彼は笑って、そしてまたこっちを向く。

『あ』
『と』
『で』

　彼の唇が音も無く零したその言葉に、僕は眉をひそめる。
　……あとで？　１回戦をチェックする程、誠凛に執着はしていないし、そもそもあいつはレギュラーですらないだろう。とりあえず、名前も知らない彼への僕の印象は、

　――気に入らない

　ただそれだけだった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
 ]]>
		</content:encoded>
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		<dc:date>2013-12-22T21:27:05+09:00</dc:date>
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		<title>②</title>

		<description>あの日のヒマワリ君に会う事はあれから4年…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ あの日のヒマワリ君に会う事はあれから4年間、一度もなかった。
　毎年ヒマワリの時期には庭園に行っていつかのお礼を言おうと待ってみるけれど、それでも彼は一度もそこに現れない。
　何処の誰かも知らない子なのだから、再会出来る方がおかしいけれど。
　彼から貰ったヒマワリは夏が終わると枯れてしまったけど、沢山の種子を残してくれたから、僕はその種子をまた植えた。だからヒマワリは今も変わらず僕の元で生きてくれている。
　
　だけれども、そんなヒマワリとは裏腹に、変わらないままを願っていたものは次々と姿を変えて行った。
　
　まず第一は父だ。
　母の死をきっかけに、父は変わってしまった。
　元々寡黙な人ではあったけれど、時々見せていた笑顔はすっかり枯れてしまった。鋭い瞳は息子を見る目なんかではなくて、温かさなんて微塵も感じられない。父は、きっと行き場の無くなった気持ちをどうすればいいのか分からなくて、お母様の居なくなったこの世界でずっと彷徨っているのだろう。

　ヒマワリのように真っ直ぐである事は難しいのだと思う。　人と人との関係も、その人自身も。
　
　そして、僕もきっと変わってしまった。
　お母様との約束なんてもう終わったと思っていいのに、相変わらず僕は勝利を手にし続けている。時には自分を殺し、仲間を殺し、心を鉄に変えながら。勝利を手にする僕なら、父も離れていかないし、お母様だって褒めてくれるに違いない。例えそこに僕の心が無かったとしても。

　拝啓　お母様

　お母様、今日も僕は負け知らずです。
　明日も明後日も、いつまでも、僕は負けを知らないで生き続けるんでしょうか。
　人間は敗れて初めて成長するものだと、昔、誰かが言っていました。
　僕の成長はいつから止まったのでしょうか。
　本当は、誰かが僕に刻んでくれるのを、心の何処かで期待しているんです。
　でもその誰かは、お母様以外考えられないんです。
　
　今日からWCが始まります。
　僕は嘗てのチームメイトと戦う事になるでしょう。
　彼らは着実に成長しているみたいです。純粋に優勝を目指して仲間と、戦っています。

　……それでも今日も僕は勝ち続けます。
　彼らの前に立ち塞がる事、僕の勝利は意味の無い物であっても、彼らの敗北はきっと彼らにとって成長の糧になるでしょうから……。
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:26:43+09:00</dc:date>
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	</item>
	<item rdf:about="https://kurogoma.web.wox.cc/novel/entry10.html">
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		<title>①</title>

		<description>

蝉の音さえ聞こえなくなった。
　体…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ <img src="https://wox.cc/user/kurogoma/o/20131222-212401.jpg" alt="ひまわり" class="pict" />

蝉の音さえ聞こえなくなった。
　体が沸騰しそうな程に暑い夏の日なのに、僕は体から汗が出ている事にすら気がつけない。
　
　声にならない疑問が心の奥で渦巻く。ドロドロとしたそれは僕の中で吐き気を生んだ。

　悲しいってこういう事なのですか。そんな4文字で治まる程、僕の気持ちは簡単なもので……、すぐに消えてしまうものなのでしょうか。
　
　――征十郎、冬に咲くヒマワリは凄いわね。……私もこんな風になりたかったわ。

　今なら分かる、その言葉の意味が。冬、庭の片隅に咲いたその花を見て、お母様が本当に僕に伝えたかった事が。寂しそうにほほ笑む横顔の裏に隠されていた影の意味が。
　
　――ねえ、征十郎、勝負をしましょう。

　お母様はいつだって発想豊かで、その豊かさ上にまだ小さい僕を振りまわしてくれた。
　でも、それを嫌だと思う事は一度も無かった。
　時に僕を困らせてくれる自由なお母様が好きだったから。

　――これから何か勝負をする時には、絶対に勝つ事。それはお母さんも同じ。
　　　どちらかが何かに負けたなら、その時点で私と貴方の勝負は決まり。

　これも、いつもの自由奔放な提案の一つだと思っていた。
　いつにも増して無茶苦茶過ぎる勝負を投げかけられて、その時の僕は唖然としていたけど。

　――もし私が勝った場合は、私の願いを征十郎が叶える事、
　　　万が一貴方が勝った場合には、同じように貴方の願いを私が叶えてあげるわ。

　そんな勝負に何の意味があるのかなんて分からなかったけど、僕は流されるままにその勝負に乗ってしまった。いつもの事だ。
　僕もお母様も強いからどっちにしろ勝負はつかないと思っていた。
　その内、勝負をしてた事すら忘れてしまう、そんな風にこの時の僕は思ってたんだ。

　だけど……、この勝負は僕の勝ちで幕を閉じた。

　僕は何事にも勝ち続けた。元々負けを知らなかった僕だから、それが当たり前だ。
　でも、僕はお母様に願いを告げる事は出来なかった。

　お母様の容貌は美しいものだけれど、あの人は元々お嬢様育ちでは無い。お母様は強い人だったと、お父様は語っていた。そして自分が唯一勝てない人だとも。
　
　そんな強いお母様は僕との勝負に負けると同時に眠りに落ちてしまった。それは一生覚めない深い眠り。

　お母様は病気に負けた。
　僕はお母様の病気について知らなかったから、突然の事で視界が真っ暗になった。

　僕がもし勝ったとしても、大した願いなんてない。ただこれからも家族3人で暮らせればいい、それ位しか、僕の願いなんて無かったんだ。
　そんなの願わなくても叶う物だから意味ないね、って心のどこかで笑ってた。その時の僕は、その願いが意味のある物に変わるなんて、全く思っていなかったんだ。

　母と勝負を始めた冬から、2年後の事だった。

　葬式を終え一人こっそりと抜けると、母と良く遊んだ庭園で僕は一人、涙を流すことも無く、座りこんでいた。
　考える事を始めてしまったら、きっと涙があふれて止まらなくなる。
　立ちあがる事が出来なくなってしまう。
　もう、何時間ここに居るかも分からないけど、お母様が来る様子は少しもなくて、でもそれが当たり前なんだって気づくと、涙を通り越して笑いがこみ上げて来そうになった。
　
　願い事叶えてくれるって言ったのは誰ですか。

　まだまだ夏休みは続くから、今年はディブ二―ランド行こうねっ言ってましたよね？
　明日は宿題見てあげるって、明後日は一緒に庭園で遊んでくれるって、来年中学生だから入学式に着る服用意しとかないとなあって、部活動をするならお弁当作ってあげるからねって、応援行くからねって、絶対征十郎なら勝てるからねって、だって私の息子だから……って――
　
　全部嘘ですか。

　笑い声が全部溶けて、涙に変わった。
　ほら、止まらない。貴方の前で僕は泣く事をしなかった。だから、涙の止め方すら貴方に教えてもらえなかった。
　赤司家の一人息子である僕は強くなければならない、涙は見せてはいけない。
　目が腫れたらお父様にも、額縁の中のお母様にも、会わせる顔が無い。
　だから、早く、
　止まれ、
　止まれ、
　止まれ、
　止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ……――

「……泣いてるの？」

　突然降りかかったその声に、僕の心は音も無く氷づいた。
　この庭園はお母様と僕の所有物のようなものだ。赤司家の庭の一部、つまり許可の無い者は本来入ってはならない。

　なのに何故？

　振り向いた先に居るのは、Ｔシャツに半ズボンを着た同い年に見える男の子。
　彼の瞳に映るのはクシャクシャに顔を歪めた僕の姿、その醜さを目にした僕は向き直って顔を隠した。

「別に……泣くって普通の事だよ？　隠す必要無いじゃん」
「……」
「俺も昨日母ちゃんに怒られて泣いたしー」
「……僕は今まで泣いた事が無い」
「え、嘘。じゃあ、今までの方がおかしかったんじゃない？」
「僕はいつだって正しい」
「んー……、じゃあたまには君が正しいと思わない事もしてみたら？」
「……どうして。僕は完璧で無くてはならないのに。こんな姿を他人に見られるなんて、羞恥で耐えられない」
「しゅーち？　難しい言葉遣わないでよー……。出来れば俺みたいなふっつーの小学生にも分かるように話してほしい」
「君と話す理由が僕にはない、そしてここは君のような者が踏み入れる場所なんかじゃない」

　この少年は何をしにここに来たのかは知らない。
　ただ僕は、お母様と過ごしたこの空間に、今は誰にも踏み行って欲しく無かった。この地につけていいのはお母様と僕の足跡だけ。
　だから一秒も早く、僕は少年にこの場から立ち去ってほしかった。

　しかしその少年は苛立ちを見せる僕に怯む事も無く、表情一つ変えずに言葉を投げかけてきた。

「俺にはあるんだよ、君と話す理由が」

　知り合いでも無い、いかにも小学生という感じの子供が僕に話す理由……？
　
「……何？」
「んー……ま、とりあえず、涙、拭きなよ」

　少年は僕にハンカチを出した。くまの刺繍がついたハンカチ。
　屈託のない笑顔に抗う気も失せたから、僕は大人しく彼の好意を受け入れた。

「……ありがと」

　僕が今よりずっと幼いころ、お母様が僕にくまのぬいぐるみを買ってきてくれたっけ？　僕としては女の子扱いされたようで複雑だったけど、お母様は何だかんだで可愛いものが好きだから……。あのくまは今何処にあるのだろう？
　
「ここは綺麗な所だね」

　突然呟いた少年の横顔がいつかの誰かと似ていて、少しだけ胸が痛む。
　
「こんなに綺麗な花が並んでる所見た事ないよ」
「お母様が……、全部育てていたんだ」

　もうここには居ないけれど。……そんな事は少年にとって全く知らない事であるのだから、敢えて僕は口に出さない。
　ああ、ここはお母様との思い出の場所であって……、そして僕と一緒で、お母様に置いて行かれた場所でもあるんだ。この花達はこれからどうするのだろう？

「こんな綺麗な花を育てるお母さんなら、きっと綺麗な人なんだろうねぇ」

　少年ははにかむ。少し照れくさそうに、何かを気にしながら。

「うん、綺麗な人だよ。この綺麗な花々とも比べ物にならないくらい」
「そっかあ……」

　少年は周りを見渡して、少し悲しげに眉を潜めた。

「でも、この花達何か寂しそうなんだよね。こんなに綺麗なのに」

　変わらない口調で言われたその言葉に、僕の胸はチクリと痛んだ。

「水が……足りないの、かな？」
「そういう事じゃないと思う、ただ何かを失った時みたいに悲しそうなの」
「……」

　僕は何も答えられなくなった。今、何かを口にしたら、言葉と共に涙があふれてしまいそうな気がして。
　少年はもしかしたら僕の事を知っているのかもしれない。
　だとしたら、少年は僕とこの花達を何処か重ねている……？

「だから、ね、君が笑っていたらこの花もつられて元気になると思うんだ」
「……何言ってるの……」
「上手く伝わらないもんだねぇ……。だから、何が言いたいのかと言うとさ、

　……泣かないで」

「泣いてなんか……」

　ない、そう言いかけた僕の肌がいつの間にかまた涙で濡れているのに気付いて、慌てて僕は目を擦った。

「そんなに擦ったら傷がついてしまうよ。折角綺麗な瞳なんだから……」

　煩い、そう言う事すら出来なくて僕はまた地面に座り込んだ。
　泣きたくない、こんな自分を見られたくない、これ以上自分自身に負けたくない、なのに。
　どうしてこの少年はこんなにも僕の心を揺らして、視界を歪ませるのだろう。

「……もう夕日が沈んでしまうから、帰らなきゃ」
「え……？」
「そんな寂しそうな顔しないでよ、俺は小学生なんだから遅くまでフラフラしてる訳にはいかないの」
「別に寂しいとか思っていない、ただ結局君は何をしにここに来たのか、それを聞いていないと思っただけだ」
「あ、忘れてた……。別にこれと言って話したい事があった訳じゃないけれど、ただ、渡したいものがあったんだ」
「……？」
「えっとね……、はいこれ」

　彼がリュックサックから取りだして僕の隣に置いたのは、小さなヒマワリの鉢植え。小さくても綺麗に咲くヒマワリは、いつかお母様が話してた、冬の庭園の隅に咲いてた一輪のヒマワリと重なった。

　ヒマワリのような人になりたい……――、そう言っていたお母様。
　僕にもそんな人になって欲しいと願っていたのですか？　ヒマワリのように高くを見つめて伸びていけば、僕もお母様に届きますか？　また会う事が許されるのですか？
　この問いかけに答えてくれるお母様はもう居ない。だけど、このヒマワリは穏やかにそんな僕を笑ってくれているようだった。

　少年は僕と同じ目線に腰をおろして、優しく微笑んだ。

「……会ったばかりの君の事なんて俺は知らないけど、ちゃんと何処かで見守っているから。その花でも見て想い出して。君の大切な人の事」
「……」
「それと、あ、あと……俺の事も」
「……君の事なんてすぐに忘れる」
「ふはっ、酷いなあ。でもそのくらいの憎まれ口叩けるのなら、君はまだ大丈夫だよ」

　名前も知らないその子の声は、優しく僕の肩を抱いてくれた。
　その部分から、小さな温度がやっと僕の心に現れた。

「じゃあ、明日、君が笑える事を祈っているよ」

　名も知らない、ヒマワリの男の子はそんな言葉を残して、すっと帰って行った。

<a href="https://kurogoma.web.wox.cc/novel/cate3-2.html">→②</a> ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2013-12-22T21:21:59+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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	<item rdf:about="https://kurogoma.web.wox.cc/novel/entry9.html">
		<link>https://kurogoma.web.wox.cc/novel/entry9.html</link>
		
				
		<title>⑤</title>

		<description>身体にズシッと重みを感じた。
　――――何…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 身体にズシッと重みを感じた。
　――――何これ……。もしかして金縛り？　やばい、目開けなきゃどうしようもないのに、目開けたくない。臆病だとかそういう問題じゃなくて、金縛りって誰だって怖いだろ！　どうしよう……、マジ誰か助けて。
――――ていうか、今何時だよっ！11時に寝たけど……、まだそこまで時間経ってないような気がする。金縛りって寝て時間が経ってない時にあるもんだっけ……？

「征との約束忘れちゃったの……？　光君……」
「あ」
　
　聞き覚えのあるその声に反射するように目を開けると、そこには赤司……、基い征君が居た。
　ねぇ、今日の朝といい今といい、何故彼は俺を起こす時決まってそういう体勢なの？　あざとい越して際どいよそれ……。

「光君やっと目覚ましてくれた。征、10分くらい待ってみたけど光君いつになっても起きないから」
「ご、ごめんって……。泣かないで」
「許さないっ！　征との約束忘れてたんでしょ？忘れてたんでしょ？ねぇそうなんでしょ」
「決して忘れてたわけじゃ……ごめんなさい忘れてました」

　涙目で頬を膨らますとか……、やめてくれ赤司の顔で。いや、征も赤司なんだけどさ。何度も言うようだけどあざと過ぎて心臓に悪いんだよ。姿は16歳なのに……。

「とりあえず、この部屋は色々と危ないから、外、出よ。みんな起きちゃう」
「うー」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

「征はねー怒ってるんだよ―？」

　暗くて不気味な廊下を二人並んで歩きながら、俺は征君に謝り続けた。征君は相変わらず、頬を膨らませて不満をぶつけてくる。

「だから、ごめんって言ってるじゃん……。忘れてた事は認めるし」
「人間誰だって忘れるもん、それはどうでもいいのー」
「じゃあ何に対して怒ってるのさ？」
「分かんないの？　光君さー、10分もあんな暗い部屋で光君が起きるのを待ってた征の気持ちを考えてみてよ」
「あー……えっと寂しかったの？」
「うん。人がいっぱい居るのに、一人ぼっちみたいで寂しかった」

　そういう風に言われると本当に申し訳なくなった。確かに、知らない人達が沢山寝ている所に、一人で来て、征君の目的だった俺は何も無かったかのように寝てたんだ。考えれば考える程、征君にどんな気持ちにさせていたのか気付いていく。

「……ごめん……気づかなくて。でも、叩き起こしてくれても構わなかったんだよ？」
「でも光君が疲れてるの分かってたから……。征、迷惑は掛けたくないもん」
「征君は……いいこだね」

　今日はほとんど身体を動かしてないから、ただの気疲れ何だけど、寝てる時の俺、そんなに疲れた顔してたのかな？　征君にまで気を使われるとは。

「いいこ？　ね、征、いいこ？」
「うん、いいこいいこ。気を使ってくれてありがとね」
「へへっ……。しょうがないなー、許してあげるよ―」
「おっ」
「でも、征のやりたい事に付き合ってくれたらね―」
「条件付きかよっ」
「何？　文句あるの？」
「アリマセン」

　打算的で気を損ねられると面倒くさいとか黒子も言ってたな……。赤司が本気で怒った時は1週間くらい口聞いてくれなかったとか、聞かされたことがあった。何をそんな怒らせるような事をしたのかは分からないけど……。きっと相当な事をしでかしたんだな。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

　征君に手を引かれるまま足を進めていたら、俺はいつの間にか数時間前まで使用していた体育館に着いていた。

「ね、ねぇ、征君。何で俺ここに居るの？」
「何言ってんの―。光君、征のやりたい事に付き合ってくれるって言ったじゃん」
「言ったけどさ！　ていうか、何で当然のように体育館のカギ持ってるの？」
「部屋にあった！」

　デスヨネー。

「普通に考えて体育館を無断使用するのは良くないと思うんだなぁ……。既に電気点けちゃったけど、バレたら……」
「大丈夫だよー、だって征がやりたいって言ってるんだもん」
「……」

　自分がやりたいって言った事は全て通用するのか。そんな訳がないだ……いや、それが出来ちゃうのが赤司なんだよなぁ。

「征君は、体育館で何やりたいの？　一応、俺寝起きなの分かってる？」
「分かってるよ―。征ね、久しぶりにバスケしたいんだー！」
「え」

　今日昼までしてたじゃん。つい、出そうになったその言葉を飲み込んだ。
　
「何で不思議そうな顔してるの？　『征』はもう何年もバスケしてないよ」
「あ、そっか。そだ、ね」
「うん。でも、征は誰よりもバスケが大好きなんだ。バスケは、昨日言ってた征のお友達と仲良くなれたきっかけだったから！」
「へぇ、って事はその友達もバスケ好きだったんだ？」
「うん！大好きだったよー」

　俺とおしゃべりをしつつも、征君はテキパキと体育館の備品としておいてあったバスケットボールを出してきた。
　久しぶりに触るボールの感触に感動している様子で、征君はドリブルをついた。
　試合中の威圧感はないものの、上手いのは変わらない。少し違和感があるけど。

「征はね、小学校の頃からバスケしてたの。お父様は怪我しやすいスポーツなんてやめなさいって言われたけど、征はどうしてもバスケがしたかったんだー」
「へぇ、征君は何でバスケ始めたの？」

　征君が始めたきっかけは、赤司がバスケを始めたきっかけという事にもなる。始まりは想い出として残って無かったとしても、変えようがない事実になる。

「小学校3年生の時、旅行でアメリカに行ったの。そこでバスケの試合を見たんだけど、その時にかっこいいなぁって思って、征もやってみたくなったんだ」
「そっかぁー……。案外普通な動機だね？」
「えー、そんな意外？」
「うん」

　そういえば、アメリカのプロの試合ってめっちゃ高いんじゃなかったっけ？　最後席でも5万とか……、そういえば赤司は金持ち……だったか。

「って、征君、どうかした？」

　征君はボールを手に握って、浮かない顔をしていた。
もしかして、俺、気に触るような事言ったかな……。謝らなきゃ。

「あの、ごめ――「光君」
「……ん？」
「征は光君が思っているより普通の子だよ。スポーツだって周りの子と大して変わらないような動機で好きになるし、自分の意思が通らないと拗ねるし、怒られたらへこむし、友達いっぱい出来たらいいな、なんて普通の願望抱くし、毎日笑顔で過ごせたら幸せだなぁって思うよ。それに……」

　ダンッ　ドリブルをついて、征君は綺麗なフォームでジャンプシュートをした。その姿は今日見た試合での赤司と同じフォームだった。
空気を切り裂くように弧を描いたボールは、当たり前のようにリングを潜ると思っていた。でも、俺が思ってた当然を崩すかのように、そのボールはリングに弾かれた。

「征だって、シュート外す事もあるよ」

　俺は彼に対してどんな幻想を抱いてたんだろう。
　赤司も征君も結局は同じ根から生まれた、色違いの花に過ぎない。
　昨日、海で見た赤司は、光の届かない深海のような目をしていた。威圧感どころか、生気すら感じないその目を、俺は拒絶してしまったんだ。
　どう見ても大丈夫じゃない人に『大丈夫？』なんて聞く事は、傷ついた心に薬を塗って麻痺させるようなものだ。だから、せめての事、あの時優しく抱きしめてあげる事が出来たら……。
心が覗けないなら、心を預けてもらえるように努めればいい。どうして、そんな事も気づかなかったんだ？

「……光君、何で泣いてるの？　何処か痛い？」
「えっ……」

　頬に手を当てると、いつの間にか生温かい水が伝っていたのが分かった。
　俺、いつの間に泣いてたんだろう。征君を慰めるつもりだったのに、俺が泣いてどうするんだ。本当……、格好悪い。

「ごめんね、征君。何でもないから」
「光君は何でも無いのに泣く人じゃないよ。だって光君は征と違って強い子だもん」
「強い子……？」
「うん。だから、強い子な光君には、征がおまじないを唱えてあげる」
「おまじない？」
「うん、だからちょっと待ってて」

　征君は音がするほど大きく息を吸った。

「痛いの痛いの飛んで行けーっ！」

　体育館いっぱいに征君の声が反響する。必至で叫んだ征君を見て、俺はただ目をパチクリする事しか出来なかった。

「えーっと……」
「へへっ、光君、涙引っ込んでる！　征のおまじない効いたかな―」
「そうだね……。ありがとう、征君、元気出た……かも」
「どういたしまして！　実はこのおまじないは征が作ったんじゃないんだよ。前ねー、征がバスケしてた時にドジってこけちゃったの。その時にテツ君が教えてくれたんだよ。元気が戻ってくるおまじない！」

征君は多分幼稚園や保育園に預けられたりしていないから、テツ君とやらに教えてもらったおまじないは、テツ君オリジナルのものだとずっと思っていたのかな……。

――って、あれ……。

「ね、ねぇ、さっき征君、テツ君って……」

　――いや、まさか。そんな訳がない。

「ああ、そういえば言ってなかったねー。征の友達の名前だよー」

「黒子テツヤって言うんだ」
 ]]>
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		<title>④</title>

		<description>今日の練習は、合宿が始まって丁度折り返…</description>
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			<![CDATA[ 今日の練習は、合宿が始まって丁度折り返し日だった事もあり、洛山との練習試合が行われた。

　洛山は意外にも練習試合に赤司を含むレギュラーで挑んできた。『勝利』が絶対である赤司率いる洛山が、そのメンバーで挑んできたのは、きっと去年誠凛に負けてしまった事からだと思う。その心意が伝わってきたからか、練習試合ではレギュラーじゃない俺達1年生を出来る限り出してくれていた監督も、今回ばかりは勝ちを取るメンバーで挑むみたいだ。だから今回のスターティングメンバーは、火神、黒子、日向先輩、伊月先輩、水戸部先輩だ。

　木吉先輩は足への負担の少ない練習メニューには参加するけど、ドクターストップによって試合には出れなくなった。先輩は人一倍バスケに対する気持ちが強い。だからこそ、試合を見る度に、心の中で何度も何度も、自分の足を恨み、「試合をしたい」という本当の気持ちを握りつぶしている。今だって、先輩は笑顔でチームの応援に努めてるけど、好敵手である洛山との試合を見てるだけしか出来ない事を悔んでいる。いつも何か先輩に声をかけなくてはと思っているのに、その結果に脅える心が邪魔して、未だ一度も声をかけた事が無い。

今回の試合、当然のことながら俺の出番は無い。赤司は数日前に、俺と試合するのが楽しみだと漏らしていたから、今の状況を少しだけ残念な気もした。でも、誠凛、洛山の試合を見ている内に、あんな所に俺が出たら場違い極まりないよな……、出れなくて良かったかもしれない、なんて密かに安堵している自分が居た。周りは洛山に恐怖を覚えながらも、試合してみたいという好奇心を持っている奴らばかりなのに、自分の情けなさに涙が出てくる。

　コートに立つ赤司は、やっぱりWCと変わらない威圧感を放っていた。紫原や青峰も人並み外れた威圧感を持っていたけど、赤司はそれとは違う、特異な威圧感を放っているように見える。きっとそれは、青峰や紫原のように風貌による威圧感がないからだと思う。普段は童顔で儚い印象のある赤司だけど、バスケをしている時の彼は相変わらず無敵で、かっこいい半面、少し怖い。

　気付けば、コートを駆ける赤司を無意識に目で追っている。出来る事ならずっとこの姿を目に焼き付けていたいな……、なんて思っていたその時、突然体育館に何かが床に打ちつけられるような音が響いた。　その音に、中の人、俺と同じベンチの人達、その場に居た全員が動揺して、あたりを見回しだしたが、くだらない事を考えていて試合観戦に集中していなかった俺は、そんな周りに取り残されていた。

「黒子っ！」
　
　いつになく焦っている火神の声が聞こえ、さっきまで全力で試合してたはずのメンバーが一点に集まっていった。
　影の薄い黒子を視界に捕らえてなかった俺は、何が起きたのか分からず、周りに流されるようにメンバーの集まっている所に行っていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

　目を開けると、そこには見なれない白い天井が広がっていた。

「あ、目覚めた？」

　視線を横に移すと、チームメイトである降旗君が、僕を心配そうな顔で見つめていた。
　どうやらここは、どこかのベットらしい。学校の保健室を連想させるような空間だけど、今は夏休みなのでそれは違うだろう。今日は合宿の為、去年も来た合宿所に泊って……。きっとここは合宿所内の保健室のような所だという事は分かったけど、何故自分がここに居るのかが分からない。洛山と練習試合をしてた所までは覚えてるんだけど……。
　後頭部がガンガンと悲鳴を上げている。ボールでもぶつけてしまったのだろうか……。

「ここは合宿所の救護室だよ。頭、まだ痛む？」
「いえ……、少しだけ」

　チームメイトである彼に心配させてはいけないと思い、囁かだけど嘘をついてしまった。きっと僕が倒れてしまったから、試合を見れずにずっと付き添ってくれてるのに、これ以上迷惑をかけてしまったら、彼に申し訳が無い。

「そっか、なら良かった」
「心配かけてしまってすいません」
「いいよ。チームメイトっていうのは心配して、心配されるもんだろ？」
「確かにそうですね……。心配してくださってありがとうございます。僕はもう大丈夫なので、試合に戻りたいのですが……」
「いや、無理すんなって。まだ少し痛むんだろ？　監督も休ませとけって言ってたから、今日は休んどけって」
「そ、うですか……。洛山との試合、楽しみにしていたのに残念です。でも、今日はお言葉に甘えて休む事にしておきます」
「おう」

　東京と京都の距離だ。WCとインターハイ以外で洛山と試合が出来るのは極めて貴重な事であって、次は無いかもしれない。ああ、勿体ない事をしてしまった……。そういえば、何で僕は倒れたんだろう。

「そういえば、俺、黒子が倒れた時、見て無かったんだけど、根武谷さんの腕が当たって倒れたんだって？　先輩達が言ってた」

　あ……。言われてみればそうだった気がする。何故根武谷さんの腕に当たったのかは分からない。試合中にマークしてて当たったか、それとも根武谷さんが僕の存在に気付かずにぶつけてしまったか……。いずれにしても、僕の不注意以外の何でもない。どうしてそんなくだらない事で、倒れてしまったんだろう。……なんて、本当は分かってるのに。

「すいません、僕の不注意で試合に穴を空けてしまって」
「何で謝るんだよ？　誰にでもうっかりする事くらいあるよ。俺なんてしょっちゅうだし」
「でも、あれが公式戦だったら……」
「まぁ、もしもの事は考えなくていいんじゃない？　次から気を付ければ、監督だって怒んないよ」
「はい……、でも、チームメイトの皆さんには後で謝っときます」
「おう、黒子がそうしたいならそうしたらいいよ」
「降旗君は、もう帰ってくださっても構いません。僕の為に試合抜けてまで付き添ってくださって……申し訳ないので」
「いや、俺はベンチだし、好きでここに居るだけだからさ」

　降旗君はチーム内でも、人情が深く、少し怖がりすぎる部分もあるけど、そんな所も彼の強みにしてプレイ出来る、良い選手だ。もちろん、友人でもある。当たり前のように僕に優しくしてくれる。僕が気を使わなくていいように、小さな嘘まで吐いて。

「別に責めてる訳じゃないけど、何で……あんなボーッとしてたの？　何か試合中にまで影響するような悩みがあるなら、聞くけど」
「いえ……、悩みはありませんけど、無意識に考え事をしていたみたいです」
「そっか……。何考えてたの？って俺が聞いていい事かな？」
「何と言うか……、凄くくだらない事なので、教えられません」

　くだらない事を考えていて試合中に馬鹿なミスをするなんて、選手としての自覚が足りないと思われてもおかしくない。でも、僕の考えていた事は、周りにとってはくだらない事でも、自分の中では大きいものだったのだ。

　――その僕が考えてた事に、自分が出てきていただなんて、目の前に居る彼は知らないんでしょうね。

　誰よりも人情が深く、心配りの出来る降旗君。
　そんな典型的な『優しい人』である彼だからこそ、僕は気になっている事がある。

　それはこの間、彼が赤司君にテーピングを施し終えた後、何やら楽しそうに話してた事だ。

こんな事を僕が気にするのが、普通ではない事くらいちゃんと分かってる。でも、何やら楽しそうに話している二人の背中を見て思ってしまったのだ。優しさを知らない赤司君にとって、降旗君のような存在こそが彼を温かく迎えるのに相応しい、と。僕みたいに、くだらない事で嫉妬するような奴に比べたら、降旗君は非の打ちどころがない良い人だ。

「別に言えない事なら無理に聞きだしたりしないけどさ。何か悩み事あるんだったら、俺じゃなくても火神とかに相談しろよ」
「はい、そうします」
「うん。そういえばさ、全然関係無い話になってしまうけどさ」
「はい」
「黒子って赤司の事どう思ってんの？」
「え」

　このタイミングで問われた突然の質問に、僕は平然を装う事が出来なかった。つい動揺を顔に出してしまったけど、僕は自身の気持ちを彼に悟られてしまう訳にはいかない。どういう意図でその質問を投げかけてきたのかは分からないけど、平然と答えなければ……、いくらチームメイトでも、僕の歪んだ思いには気づかれたくない。

「あ、別に変な意味で聞いてるわけじゃなくてさ」
「好きですよ」
「え」
「お痛が過ぎる事もありますが、基本的にはいい人ですし、3年間一緒に過ごしたチームメイトです。今の誠凛のチームメイトの事ももちろん好きですが、昔の仲間の事も大切に思ってますよ」
「そっ……かぁ……」
「はい。何故、突然そんな事を？」
「特に意味なんてないけどさ、この間、赤司と話してたら、赤司は黒子に嫌われてるって思ってるみたいだったから……」
「そんな事ないです！……何であの人はそういう勘違いをしてしまうのでしょうか……」

　いつだってそうだ。僕が近づけば近づく程離れて、好きになればなる程遠ざかっていく。こんな気持ちの悪い恋情を持っている僕の事を知った上で、距離を持たれてると思っていたのに、僕が赤司君の事嫌い？　何でそういう風に考えてしまったのか、僕には全く理解出来なかった。

「俺は赤司とほとんど話した事ないから、あいつの事良く分からないけど……、赤司ってさ、黒子が思っているより、周りの事見えてないんだと思うよ」
「どういう事ですか？」
「えーっと……、何かさ、赤司って自分の事も周りの事も何でも知ってるって感じがするじゃん？　でも、話して見ると意外と分かってない事の方が多いんじゃないかなーって」
「確かにそれはそうかもしれません……。でも、僕が赤司君の事を嫌っていると思われていたのは、心外です。3年間も一緒に過ごした彼を嫌いになるなら、僕は青峰君や紫原君達の事も嫌ってる事になってしまうじゃないですか」
「うーん……。でも、黒子とは、退部時に何かあったんじゃないの？赤司は帝光の主将だったんだろ？」
「それは……」

　確かに何も無かったとは言えない。
中3の夏、僕がバスケを嫌いになった。
コート駆け抜けるバッシュの音、強く打つドリブルの音、シュートが決まる時の音さえ、全てが僕を責めているようにしか聞こえなかった。
　バスケなんてやめてやる……、そう思って出した退部届。
　あの日の赤司君の顔を僕は忘れられない。僕がコートに立てるようになったのは、まぎれも無く赤司君のお陰だ。彼が僕の能力を見出してくれなかったら、僕は今バスケを続けていなかったかもしれない。そんな僕がバスケを辞めると言う事は、僕の能力を見つけた赤司君を否定する事と同等だ。
　あれから、1年のWCまで、僕は彼と話す事は無かった。

「その時の事は、赤司君じゃなくて僕に非があります。逆に赤司君が僕を嫌うなら分かりますが……。実際に赤司君は僕の事を良く思っては無いでしょうし」
「それは無いよ。だって、嫌いだったら、あんな顔で黒子の事を聞いてきたりしない」
「赤司君はどんな風に僕の事を聞いてきたんですか？」
「んー……、説明が難しいけど、温かくて……でも寂しい感じ？　どうしたらいいのか分からないって顔してた」
「そうですか……。やっぱり僕には彼の気持ちが理解できません」
「黒子と赤司はもっとお互いに意思疎通した方がいいと思うよ。普通、言葉にしないでも伝わる事より、
言葉にしなきゃ伝わらない事の方が多いだろ？　お前らは頭いいからお互いに何でも通じてるって思っ
てるのかもしれないけど、一番大事な所伝わって無いじゃん」
「確かにそうですね……、分かりました。折角同じ合宿所なんですし、後で話してみます」
「おう。ちゃんと黒子の気持ち伝わるといいな」
「はい」

　彼は、僕が友人として赤司君を好きという事を、ちゃんと赤司君に伝われば良いと思っているんだ。
別に、他意は無いはず。でも、たまに、降旗君は全て察してるんじゃないかと思ってしまう事がある。
そんなハズある訳がないのに。

「どうせ安静しとかなきゃいけないんだし、寝ててもいいよ。昼飯の時間になったら起こすから」
「え、でも……」
「気にすんなって。ずっと気を張ってばっかじゃ疲れるだろ？　今日くらい甘えときな」
「……ありがとうございます」
「んじゃ、俺、飲み物取ってくるから」
「いってらっしゃい」

　純粋な優しさ。
　僕には無い物を彼は持っている。でも、純粋さは時に人の汚い部分を突いてくる。
　赤司君が僕の話をする時にしてた表情……。温かくて、でも寂しい顔。赤司君の名前を出す度に、言っている自分がしてただなんて、降旗君はきっと気づいてないんだろうなぁ……。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

　救護室のドアを閉め、俺は足取りを止めた。

「何してるの？」

「赤司君」

　廊下の壁にもたれかかっている彼は、こっちをチラッと見た後、ばつの悪い顔をしてまた正面に向き直った。こんな所に居るとは思わなかったから、心の中では結構驚いてたんだけど、不思議と平然と話せるもんだ。

「僕の事は赤司と呼べと、今朝言ったはずなんだが……。君は数時間で物事を忘れてしまうほど、記憶に疎いのかい？」
「……ごめん、忘れてた」
「別に。そんな風に謝らなくてもいいよ。怒ってるわけじゃないから」

　赤司はきっと、『怒ってるのは君の方だ』と言いたいんだと思う。
　俺は、二人のどうしようもない両片思いを本質的に理解してしまった。
それによって、少し前に生まれてしまった自分の気持ちを、何処にやればいいのか分からなくなった事で、僕は赤司に冷めた声で話しかけてしまっていたみたいだ。こういうのを八つ当たりと言うんだろうなぁ……。
純粋な優しさを持つ人。黒子が俺の事をそう言う風に評していたけれど、そんなもん端から持っていなかった。いつだって自分を慰める為の最善の道を通って行く、その過程で行った事がただ優しさに繋がっただけ。利己主義な考えの結果だ。

「試合は終わったの？」
「終わってなかったらこんな所で時間をつぶしたりしてないよ。30分程前に終わった」
「そっか、そうだよね。ちなみにどちらが勝ったの？」
「？　質問の意味が分からない、僕の居るチーム以外に何処が勝つと言うんだ」
「……そうですか」

　去年のWC、うちに負けた癖に……、何処からその自信は湧いてくるんだろう……。喪失した自身はまた作ればいい。でも、赤司みたいに元々自身が備わっていた奴は、どうやって自身を取り戻すのだろう。もしかしたら、自信が無いまま対戦して、今日勝った事によってそれが付いたのかもしれないけど。

「ところで、こんな所で何やってんの……、って聞くのは野暮だよね。黒子、中に居るから入ったら？」

　赤司は不思議そうな顔でこちらを見ている。きっと僕は平常じゃない顔でこんな事を聞いているんだろう。

「別にあいつに会う為にここに来た訳じゃない」
「試合終わったのが30分前って事は30分前からここに居るんじゃないの？」
「お前は何故僕をそんな物好きに仕立て上げたがる？」
「……汗、首伝ってるよ」

　赤司は少しビクッとして、Tシャツで汗を拭いた。
　試合が終わって、タオルを出す暇もなくここに来たんだなんて、本気で思ってたわけじゃない。だって、運動後で、今は夏なんだ。汗をかいてたくらいでそんな事を断定するなんて馬鹿らしい。ただ、言ってみた反応で赤司の気持ちを探りたかっただけ。
　冷静沈着な赤司がこんなのに引っかかるなんて。
　ねぇ、赤司の中で、黒子の存在ってそんなに大きいもんなの？　――なんて、聞ける訳がないけど。

「そんなに心配なら、普通に入ってくれば良かったのに」
「……それが出来たなら、僕はこんな所に居ない」
「赤司って、不器用だよね」
「器用だとは良く言われるが……。不器用だと言われたのは、これが2回目だ」
「初めて……ではないんだ」
「ああ。それこそテツヤに言われた」
「うん、何となく黒子に言われたんだろうなぁって思ってた」

　さっき黒子におせっかいな事を言ってたけど、赤司の事なんて黒子だって分かってるんだ。近過ぎて見えない部分も少なくは無いけど、赤司の不器用さを一番理解してるのは間違えなく黒子であって、俺じゃない。

「あいつと二人だけで過ごす事は……、なるべく避けたいんだ」
「何で？　黒子は赤司が様子見に来てくれたら嬉しいと思うけど……」

　お互い素直じゃないから、嬉しいなんて口に出す事はないだろうけど、想いを寄せてる人が自分を心配して見に来てくれたら、誰だって嬉しいはずだ。黒子だって例外じゃない。

「もし仮にテツヤが嬉しく感じたとしても……、僕はその事に対して喜べない」
「どういうこと？　俺……、赤司の言ってる事分からない」
「……だろうな」
「赤司はさ、本当は気付いてるんでしょ？　黒子の気持ち」

　不器用と馬鹿なのは全然意味が違う。微々たる動きや精神の揺れも読みとってプレイする赤司は、人の気持ちに敏感だ。だから、黒子の気持ちに気付いてないなんてありえない。
『嫌われてると思っていた』
嘘。確かに赤司は黒子を傷つけた事があるかもしれない。でも、赤司と話してる黒子は、少し頬を染めて、表情だっていつもより1.5倍くらい動く。内面的な感情じゃなくて、外にまで出てるんだから、赤司が気づかないなんて方が無理なんだ。
自分だって黒子に好意を持っていて、黒子も自分に好意を持っている。それなのに、赤司は何が不満で何を欲しているんだろう？

「……つまり、なんと言いたいんだ？」
「黒子が赤司に好意を持っている事くらい、とっくの昔に気付いてるんだろ？って事」

　赤司は表情を変えずに「ああ」と小さく呟いて、俺に背中を向けた。
　
「……だからこそ、僕はテツヤの側に居られないんだよ」

　頼りない声で告げられたその言葉の意味が俺には理解出来ず、その場を去っていく赤司の背中を、ただ茫然と見る事しかできなかった。
　凡人である僕は、彼の心を探る事すら出来ない。
　何が彼を縛っているのかなんて、俺には分からないから、ただひたすら考えてた。
　答えが出ても、解答が無いんだから意味無い事だという事くらいは分かってたけど、そうでもしていないと俺は心の整理が出来ない。
　全く、不器用なのは、黒子でも赤司でも無く、俺の方……なのかもしれない。

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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
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		<title>③</title>

		<description>　Q.眠りから目が覚めた時、もし、目の前…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 　Q.眠りから目が覚めた時、もし、目の前に好きな人の顔があったら？

「うん……、これは夢だ」

A.	とりあえず、夢だと思い込む。

「残念だが、現実だ」
「で、ですよねー……」
「君は僕のベットで何をやっているんだい？」

　俺に覆いかぶさるかのように四つん這いの格好をしながら、冷静に今の状況に対しての疑問をぶつけてくる赤司。出来れば俺も、どうして君がそんな格好で俺の目覚めを出迎えてくれたのかを聞きたいんだけど。

「無言を貫いた場合、僕はこの宿舎の管理人に「寝てました」
「そんなのは見て分かる。真面目に答えてくれないか。目が覚めたら自分の横でほとんど面識のない奴が寝てたなんて、君だって不可解な気分になるだろう？」
「す、すみませんでしたっ……！　でも、簡単に説明できるようなものでは無くて……、何処から説明すればいいのか……。とりあえず、話をする前にちょっとどいてくれると嬉しい……」
「ああ……、すまない」

　赤司はベットに腰をかけ、俺はベットから上体を起こしてその場に正座をした。

この赤司にとって俺は特別とは程遠い存在だって事くらいは分かってつもりだった。でも、この間10分近く話したというのに、俺を『ほとんど面識の無い奴』ってカテゴリーに入ってる事は、悲しかった。
この時赤司には、俺が赤司に説明を求められて緊張しているように見えたんだろう。彼は小さくため息を吐いて、

「別に怒ってるわけじゃないから、簡単に説明してくれればいい」

　と呆れたように促した。

でも、簡単にと言われましても、あの状況を何処から何処まで説明すればいいのやら……。赤司じゃない赤司である、征君に海で会って？　彼の面倒を見たりTシャツ借りたりしてたら、半ば無理やりベットに入らされた？　
――なんて説明してどうするの。今の赤司は多分征君の記憶を持ってないみたいだし、さらに混乱させるだけじゃん。

「――成程」
「……へ？」
「何となく、理解できた」
「え、あ、俺、声に出してた？」
「……ああ」
「ごめん、無意識で……」
「謝る必要は無い。というより、謝るのは僕の方だ。僕じゃない僕が、君に迷惑を掛けたんだろう？」

　赤司はまるで当たり前かのように、『僕じゃない僕』つまり征君の事を認識していた。赤司の心の糸はどういう風に絡まっているんだろう？　征君は赤司の事を知っていて、それで赤司が許してくれたから自分が表に出てこれてるとまで言っていた。でも、赤司は昨日の事を覚えていないし、征君の事だってほとんど知らないようだ。

「全然、迷惑だとは思ってないけど……、って、あ！俺、赤司君に、服貸してもらってたんだった」
「ああ、どおりで見覚えがある服だと……」
「本当にごめんっ！　洗って返すから、今日一日貸してくれないかな……。駄目だったら今すぐ返すから！」
「いや、着ててくれて構わない」
「ありがとう。明日返すね」

　征君の言ってた通り、赤司は俺が征君に貸してもらった服について何も咎めなかった。事情を知った上で、『今すぐ返せ』なんて言われる事はないだろうと確信していたけど。

「ついでに聞いておくが、僕は何をする為に夜中の海なんかに浸かってたんだ？」
「んー、特にこれと言った理由は無いみたいだったよ。別に自殺しようとかそういう雰囲気ではなかったし……。ただ、海で遊びたかっただけだとか何とか」
「あいつは……、何を考えているんだか」
「俺にも良く分かんない。でも別に征君は赤司君を困らせたかった訳ではないと思うから……ってあ」

　赤司の前で征君とか呼んじゃった……。この赤司の事を指してるわけじゃなくても、征君だろうが赤司君だろうが、どちらも赤司征十郎な訳で。
赤司は目をパチクリして俺の方を見つめてきた。呼びなれない名前を聞いて、動揺しているのだろう。

「征君？」
「えーっと、あのー、それは赤司君の事じゃなくて、あー」

　やばい、冷や汗やばい。笑顔が引きつる。
　こっちの赤司に征君は無いよ……。

「……あっちの僕の事は征君なんて親しげに呼ぶのに、僕の事は赤司君って呼ぶんだな。何だか僕があっちの僕に負けたような気がして嫌なんだが」
「え……っと、赤司君も、征君って呼ばれたいの？」

　この時の赤司の睨み方は、いつかと同じくらい怖かった。プライドの高い赤司に「征君」なんて呼んだ日には、俺の命は無いだろう。
あっちの征君にヤキモチでも焼いてるのかと少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。

「そう呼ばれるのも嫌だけど……、苗字に君付けされるのはあまり好きじゃない」

　昨日、征君も「赤司君」って呼ばれるのが嫌だって漏らしていたっけ？　赤司も征君と一緒の事思っていたのか。何か特別な理由でもあるのか、それともたまたま二人の意思が合致していたのか。

「同級生なんだから、これからは呼び捨てにしていいよ」
「え゛っ……」
「何だその反応は……、別に嫌ならそのままでいいんだが」
「い、嫌って訳じゃないけど……何かさ、やっぱり赤司君相手に呼び捨ては……」
「君は僕を一体何だと思っているんだ。別に征十郎って呼んでくれても構わないけど」
「そういう事じゃなくっ……、ていうかそれはもっとハードル高いし！」
「じゃあ、普通に赤司って呼べばいいじゃないか。名前呼ぶだけが何でそんなに難しい？」
　
　赤司本人が居ない所でなら、むしろ呼び捨ての方が呼びやすい。だけど、本人を目の前にすると、どうしても、一線を越えた親しさを持つ事が出来なくなってしまう。この気持ちを赤司に理解してという方が難しいけど。

「で、でもさ、黒子だって、赤司君の事赤司君って呼ぶよね？」
「あいつはあいつ。君は君」
「えー……」
「ちなみに言っておくけど、僕への返事に、『はい』以外無いからね？」

　意地でも赤司君呼びをやめさせたいのかこの方は……。ここは俺が折れる以外の選択肢が無さそうだ。この人といい、征君といい、変な所で我が強いんだから。

「うー、分かった。……赤司」
「うん」

　モブ男から呼び捨てされただけでそんな嬉しそうな顔しないでよ。近距離でその頬笑みは犯罪だ。しかもベットの上で。俺がヘタレじゃなかったら完璧に襲ってたからね？

「そ、そういえば、今何時？」

どうにかしてこのやりきれない気持ちから逃れようと、不自然に話題を逸らす。
　赤司はカバンから携帯を取り出し、「5時56分」と親切に教えてくれた。

「そっか……、あと4分で起床時刻だ」
「誠凛も僕達と起床時刻は同じなんだな」
「あ、洛山も？　じゃあ、支度してそろそろ出なきゃだね」
「ああ」
「そ、それじゃ、俺、部屋戻るね。色々ありがとう」
「こちらこそ」

　部屋に俺が居ない事、みんな心配してるかもしれない。早く戻らなくちゃ。
少し急ぎ足で部屋を出ようとした時、「光樹」と呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。チラッと赤司君を振りかえると、赤司はこちらを見てニコっと笑い、

「君の体温は心地よかった」

と、俺の理性を危うく崩壊する程の爆弾発言を放り投げてきた。
もちろん、理性が本当に崩壊する前に、すぐさま部屋を出たけど。


<a href="https://kurogoma.web.wox.cc/novel/cate2-4.html">→④</a>
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		<title>②</title>

		<description>　合宿が始まって４日目の夜中。俺はふと…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 　合宿が始まって４日目の夜中。俺はふと目を覚ましてしまった。
　
　誠凛は大部屋に部員全員で寝ている。俺が目が覚めた時、周りを見渡したけど誰一人として爆睡してない奴は居なかった。みんな幸せそうに……というより、練習がハード過ぎて、まるで気絶しているかのように寝ている。いずれも、俺みたいに目が覚めるような奴は居ないみたいだ。普通、あんなに運動したら目が覚める事なんてないと思うけど……。
　ひっそり起き上がって窓の外を見下ろしてみたけど、暗くてほとんど何も見えなかった。見えるのは月明かりしかないのだから当然だ。

　赤司達が合宿に参加し始めて、３日も経った。だけど、俺と赤司が長く話したのはあの１日だけで、あとはほとんど話せていない。話しても「おはよう」とか、その程度だ。あの１０分間が奇跡のようなモノだったんだなぁと今頃になって気付いた。やっぱりあの時に、また話したいって駄目元でも言ってみるべきだったのかな……。でも、赤司はどう見ても黒子の事が好きみたいだし。俺と話したいって言ってくれたのだって、きっと黒子の近状でも知りたかったんだろう。

　そんな事を考え出したら、余計、眠りにつけそうになくなった。
　みんなを起こさないように、部屋のドアを静かに開けて廊下に出た。
　空気が澄んでるから、ここは星が良く見えるのだと、去年の合宿の時監督が言ってたっけな。最終日みんなで見に行こうと計画してたけど、結局練習疲れでそれは叶わなかった。
　どうせ今年もそうなるだろうし、一人で波の音を聞きながら星を見るのも悪くない。
　ただの気紛れで俺は階段を下り、真っ暗なフロントを通って外に出た。

「……風冷たい」

夏だとは言え、今は夜中でそして何も無い海辺なのだ。半袖で来たのが間違いだったのか、ここは凄く肌寒く感じた。
空を仰げば満天の星空……、ではあるけど少し物足りなさも感じた。どんなに綺麗な星空でも、一人で見るというのは、それだけで空虚な気分にさせた。当然、一人で星を見に行ったことも、大勢で見に行った事も無かった為、こんな気持ちになるとは予測していなかったんだけど。

浜辺の砂を蹴るようにして歩いた。ここを俺達昼間は走ってるんだなぁ……なんて考えながら。
ふいに空から正面に視線を戻し、海を眺める。夜の海というのは、太陽が無い為暗く濁って見えるから、正直言って溝や沼とも変わりが無い。でも、月明りが綺麗だと、暗い海に光が反射して少し透き通って見えるのは綺麗なのかもしれない。
波が静かに音を立てながらこっちまで来て、それと伴って光の反射が微かに向きを変えた。

「え……？」

――そしてその時見えてしまったモノに、俺は思わず目を疑った。

「ひ、人……？！」

　俺の目には、臍の上まで海の中につかり、段々深い所まで足を進めている人の姿が映った。目を凝らして見るけど、やっぱりそこには確かに人が居る。
　良く見えないけど、小さな子供ではない。多分背丈は俺と同じくらいだ。

「って……か、何してんの……？！」

　思い起こせば、この時が俺の人生で一番焦っていた瞬間なのかもしれない。
　ドラマや映画でもこんば場面があった。後先考えずに海の中に助けに行くヒーローの姿が頭によぎる。あれを見て俺は、「そんなに必至になるか普通？　海の中に自分から入っていくような奴に……」なんて冷めた感想を抱いていたけど、実際に同じ状況に立たされたら、そんな風には到底思えない。だって、目の前で人が自殺行為をしてるんだ。止められなかったら、知人だろうが、他人だろうが一生のトラウマになるに決まってる。

　今が夏で良かったと本気で思う。
　少し冷たい程度で凍え死ぬようなモノでは無いから。俺はザブザブとその人に向かって歩いて行く。まるで波が俺の歩みを拒むかのように打ちつけてくるけど、そんな事はどうでもよかった。ただ必死で、目的まで歩く。

「おい、お前っ……！」

ようやくその人に辿りつき、俺は呼吸をする間もなくその人の腕を握ってこっちを振り向かせた。名前も分からないその人に向かって叫びながら。

「何してんだっ……よ――」

――心の中で何かドロドロとした熱いものが溶け出してきた。

俺は振り向いた顔を知っていた。
俺は赤色い瞳と金色の瞳、ちぐはぐな二つの瞳を見て、思わず心臓が止まったかのように目を見開いた。この時、俺はとても情けない顔をしていたかもしれない。気付けば口をポカーンと開けて、「は……え……なっ……」と、訳の分からないうわごとを漏らしていた。彼は俺の方を向いているが、決して俺を見ている訳じゃない。無気力という文字が透けて見えてしまいそうな瞳は、今何を映しているのだろうか。

　どんなに見つめても、体温を確かめても、彼の心の声はやっぱり聞こえてこない。
　普段、言葉を交わさなくたって分かってしまう相手の気持ち。でも、今はそれが出来ない。この特別な能力が俺は嫌いで仕方が無かったけど、使えなかったら使えなかったで不便なものだ。

　彼はふいに俺の方を見て、……そして、まるで海に浮かぶ一輪の花のように脆く、そして無邪気な笑顔を俺に向けた。

「征と一緒に遊ぶの？」

　練習中にも聞いた赤司の声。その時と比べたら明るい声色で、本物なのかと本気で疑ってしまいそうになるけど、それでもこれは赤司だ。なのに……、この人と会った記憶が俺には紛い物のように思えてきた。

「赤司……君……、こんな所で何してるの？　帰ろう？」

　俺の口から出てきたのは、自分でも心が凍る程の冷めた声だった。
　赤司は俺の事をきょとんとした目で見つめ続ける。

「征、海で遊びたい。お兄さん一緒に遊ぼうよ？」

　まるで俺の話を聞いて無かったかのように、赤司は俺の腕を引っ張って、もっと深い所に入ろうとする。
　この人は……、赤司じゃない。少なくとも俺が知ってる赤司じゃない。

「征ね、一人で遊ぶのも好きだよ。でも、誰かと遊ぶのも好きなんだー。だから、お兄さん来てくれてちょっと嬉しいなって……」

　純粋な二つの瞳が俺に笑いかける。彼が笑う度に、俺はどうしてか胸が痛くなる。

「赤司君……、でも今は夜だし、こんな所で遊んでたら危ないでしょ？　それくらい分かるよね」
「えー、でもね、征、幼稚園生の時、お母様とお父様と一緒に海に行ったんだよ―？　そこには３人しか居なかったけど、征が海で遊んでるとお母様もお父様も笑顔になるんだー。だから、ここは危なくないよ？」
「その時はお母さんとお父さんがいたから……、でもここで泳ぐのは駄目なの。誰かに見られたら、赤司君怒られるよ？」
「えー……、でも、お兄さんも入ってるじゃん」
「それは……。まぁいいや、とりあえずあがろうよ」
「うー、うん」

　赤司君の腕をひいて、俺はやっと海からあがる事が出来た。
　こんな夜中には、温泉にも入れないし……。シャワーも多分使えない。服どうしよう……。１０日分丁度しか持ってきてないから、これは予想外だ……。洗面所で洗濯するしかないなぁ。

　いつから海に入ってたんだか、赤司の手は海水でふやけていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

ある程度の水分は外で絞ったけど、この状態で再び布団で寝る訳にもいかない。俺は赤司に、「ここで待っててよ？」と言って、自分のタオルを2枚部屋から持って戻ってきた。
1枚を赤司に渡して、もう一枚で自分の身体を拭く。

「あと数時間で起床時刻だけど、気温も低くは無いし、それまでには服も乾くでしょ……多分。海臭さは多少残るかもしれないから、それは我慢ね」
「何か肝試ししてるみたいだね！　暗―い。征はやった事ないけど」
「どうしたらこの状況ではしゃげるんだか……。ちょっと暗いし、ソファ―しかないけど、今日はここで寝るよ？　濡れたまま部屋に入る訳にもいかないし」
「お兄さんは部屋、みんなと一緒なの？」
「うん、みんな一緒だよ。赤司君は？」
「征は一人部屋だよー！　だから、お兄さんも来ていいよー？」
「え……」

　いや……、これは……、確かにあれから赤司と話せてないなぁ、ってさっきまで嘆いていたけどさ。今の赤司は何かちょっと違うし……、あの美人な赤司と比べたら……、何か子供っていうか、幼いと言うか……。幼い口調でもあんまり違和感の無いのがちょっと怖い。童顔って恐ろしい……。

　結局俺は、赤司に言われるがまま彼の部屋に一晩泊る事にした。

「誠凛は大部屋だというのに、洛山は個人部屋……。これが格の違いって奴か」
「？　でも、征以外のみんなは一つの部屋だったよー？　一人部屋なのは征だけ」
「え」
「何かね、気付いたら征は一人部屋だったんだよー。征ね、本当はみんなで一緒にお泊りしたかったんだけどなぁ……」
「一人で居るのは、寂しいの？」
「えー……、お兄さん、一人で寂しくない人って居るの？　征は普通に寂しいよ」

　孤高という言葉が似会う彼の口から出た、「寂しい」という言葉。これは、赤司の本心なのかな。本当は寂しいって……、ずっと思ってるの？

「征はね、誰かと一緒にお泊りしたことも、寝た事も無いんだよ―。だから、お兄さんが征と一緒に居てくれて今、征は凄くワクワクしてるんだ」
「……そっか」
「うん！」

　思わず無邪気な彼の頭を優しく撫でた。あの赤司に何してるんだか……なんて罪悪感はこの時には既に無くなってた。目を細める彼はとても気持ち良さそうで、自然と俺まで笑顔が零れた。さっきからこの人に振りまわされてばかりだというのに、この笑顔を見てると、どうしてか許してしまう。

「お兄さん、着替えよう？　征、このまま寝たくなーい」
「あ、俺はいいよ。乾くまでこのままで」
「えー、駄目だよー。風邪ひくよー？」

　元々海に入らせたのは君なんだけどね……？　風邪ひいたら80%くらいは赤司の所為だから。

「特別に征の服貸してあげるよー」
「えっ……、ああ、いいよ。気を使わないで」
「駄目！　征と一緒に寝るんだから、濡れたままじゃ嫌なの！」
「いや、俺はそこら辺に放置してくれたらいいし……」
「やだ！　征と一緒にベットで寝るの……お兄さん征と一緒に寝てくれないの？」

　やめろ……、赤司の顔でそれは辞めろ……。何で涙目なの……！　可愛いからやめてください……、俺の理性が飛んで行きそう……。

「わ、分かったから。着替えるから……」
「やったぁ。別に征じゃない征も気にしてないから大丈夫だよ。あの人も別に怖い人じゃないから」
「……」

　彼は多分、俺がこの間話していた方の「赤司」の話をしているんだと思う。この子は……、ちゃんと赤司の記憶も持っているのかな……？　そしたら、この赤司にとっても俺は初対面じゃないんじゃ……。

「征はね、あっちの征の記憶はほとんど持ってないの。征が征じゃない時があるのは分かってる。でも、征はあっちの征の記憶を欲しいと思わないんだ」

　現実離れした彼の話を俺はただ黙って聞いていた。

「だって、あっちの征の記憶を知ってしまったら、征はここに居られなくなるから。征の存在も、記憶も、元々無かった事になってしまうから……」

　寂しそうに呟く彼の横顔を眺める事しか、今の俺には出来なかった。
　多分、俺はこの子の言ってる事をほとんど理解していないんだと思う。茫然としている俺を見て、赤司は申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんね、変な話して。お兄さん、名前は何て言うの？」
「降旗光樹……って言います」
「じゃあ、光君って呼んでいい？」
「あ、うん、いいよ」
「光君、光君」
「ん？」
「呼んでみただけー。あのね、光君も征の事、征って呼んでいいんだよ？　征は苗字で呼ばれるのあまり好きじゃないんだー」
「ああ……、じゃあ征君」
「うんっ」
　
　『守りたいこの笑顔』ってこういうのを言うんだろうなぁ……。
　苗字で呼ばれるのが嫌いっていうのは、征君だけの話？　それとも赤司も同じように思ってんのかな？　どっちにしろあの赤司に『征君』なんて声かけた時には、凄い目で見られそうだけど……。彼にも、周りにも。

「光君、それじゃ寝よっかー。征も流石に眠いよ……」
「そうだね、俺も……」
　
　正直言って色々ありすぎて眠気が飛んでしまったけど、この調子だと明日の練習で俺は倒れる。ちゃんと睡眠はとっておかないとな……。今、深夜2時……。あと4時間くらいで起きなきゃいけないけど。

「光君早く来てよー」

　一足早くベットに寝転がった赤司が俺を手招きした。……この場面だけを切り取れば、まるで初夜でも迎えるかのような映像になって居うると思う。

「や、やっぱり俺、床で寝る。夏だから寒くないし」
「何言ってるのー。征、光君と寝たいってさっきから言ってるじゃん。征の言う事聞けないの？」

　征君よ……、君は間違えいなく赤司君です。根がやっぱり同じなんだね……。
　ていうか、赤司に服借りたから、俺も自分の部屋で寝て大丈夫なんだけど。それに、同じベットで寝てて、起きた時、征君じゃない方の赤司君が戻ってきてたらどうするの……。俺、土下座しても許されないような気がするよ？　

「光君……早く来て……っ……」
「わわっ、ちょ……泣かないでよ、分かったよ……もう。一緒に寝るから」
「わーいっ！」

　嘘泣きかよっ……、無駄に上手い演技しやがって……。
　男子高校生二人で寝るのには少し狭いシングルベットに、俺は諦めの色を浮かべて入った。

「光君、暖かいね……」

　征君に背中を向けるような形で寝ていると、彼はぴとっと俺の背中にくっついてきた。理性が飛んでいく前に離れてください。お願いですから。

「征はね、いつも一人だったの」

　征君は突然俺の背中に向かって話し始めた。まるで、静かに想い出話を語るかのように。

「でも、征にもね、一人だけ友達が居たの」
「？　緑間とか実渕さんとか……いっぱい居るんじゃないの？」
「……征じゃない征にはお友達が沢山居るんだね？　征はその人達知らないから分かんないや」
「ご……、ごめん」
「何で謝るの？　光君が謝る必要なんて無いよ。だっておかしいのは征だもん」

　この子は……俺に似てるのかもしれない。心が読めるという異常をおかしいと認識して否定し続ける自分と、自分の意識が二つ存在する事を他とは違うと知っていてそれを認める赤司。
　でも、俺はこの数日で彼とは離れて行ったのかもしれない。
　俺はこの異常を少し羨ましく思うようになった。最初は、心が読めない事を理由に、彼にひかれていったというのに、俺はいつの間にか変わってしまったようだ。簡単には理解できない傷を持った赤司を癒す方法なんて、異常ではない、ただの凡人である俺には分からない。異常である俺なら、もう少し彼の力になれたかもしれないなんて考えてしまう。彼の前でも異常で居られたら、彼の心を探って、傷の部分に絆創膏を貼る事くらいなら出来たかもしれないのに。

「征君はおかしくなんかないよ」

　子供をあやすような落ちついた声で呟き、背中に話しかけている彼の方に身体を返した。

「……やっとこっち向いてくれた」
「征君、俺ね、征君の前だと普通の人なんだ」
「征の前以外なら普通じゃないの？」
「うん」
「征と同じなんだね」
「……うん。でも、征君の前だと俺は何処にでも居る男子高生だから……。だけど……、普通の男子高生の俺にでも出来る事があるなら、俺、征君の力になりたいな」
「……本当に、征を助けてくれるの？」
「出来る事なら何でもする」
「ありがとう、光君……」

　今度は正面から、征君は俺に抱きついてきた。うん、どうしようこの状況。

「さっき、征には友達が一人だけ居たって……」
「うん。ちゃんと聞いてたよ」
「征ね……、その子に会いたいんだ。征、本当はここに居たらいけないの。征じゃない征はね、自分を完璧な人にしたいから、自分に必要無い、『自分』はどんどん切り捨てていってるの」
「そ……そっか……」
「だけど、征じゃない征は、何故か征がこうやって表に出てくる事を許してくれる。だから……、多分あっちの征は、征がその友達を探す事を望んでくれているんだ」
「征君は自分の意思で、ここに居るの？」
「うん、でもあっちの征に迷惑は掛けないよ。だから、昼間は表に出ない」
「……そっか。じゃあ、夜の内に探さないといけないんだね？」
「うん。どうやって探すのかも分かんないけど……、それでも征はその子に会いたいの。会わないといけないの」
「……ん、分かった。協力する。今日はもうこんな時間になってしまったし、明日から探そう」
「うん……。光君、本当に……ありがとう、……」

　征君はそのまま俺の腕の中で眠ってしまった。
　あと6日で俺は征君に……、赤司に何が出来るんだろう。ただそれだけを考えて、静かに寝息を立てる彼の隣で目を閉じた。

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