「……君か」
三日目まで、洛山は試合が無い。
今から強豪校をチェックする必要なんて無いと思ったので、東京都内の体育施設を前もって借りていた。そういう事情によって、今日も明日もいつも通りの練習。
8時にホテルに帰り、シャワーを浴びて、僕は持ってきていた制服に着替えた。
目の前の男に会ったのは、ホテルの外に出た時だった。
数か月家に戻っていないから、これから父に挨拶をしに行こうと思っていたのだ。
「こんばんは」
「……何か用か?」
そんな冷たい顔しないでよ、と彼は笑いながら言う。
まるで僕がホテルを出る事を知っていたかのように待ち構えていた男に対して、温和な態度を取れという方がどうかしている。
「何故、僕がここに泊っている事を知っていた?」
「んー、さぁー、何でだろうねー?」
調べれば分かる事であり、逆に言うと調べなければ分からない事である。何を企んでいるのかは分からないが、仮にも赤司財閥の一人息子だ。平凡な顔した高校生であれど、用心するに越した事は無い。
「僕は忙しいんだ。用があるなら手短にして欲しい」
「……そう言われると、用があったかどうかを思い出す所から始めなくちゃいけなくなるんだけど……」
「は……? 用も無いのにこんな所に居たのか? そんな訳が無いだろ」
「いやあ、昼に君の顔を見たら嬉しくて……、頭より先に足が動いた」
訳が分からない……。コイツ馬鹿じゃないのか……、こんな奴がWCまで勝ち残っているとは……、まあどうせレギュラーではないのだろうから、試合する事はないと思うけど。そんな奴が僕の所まで尋ねてくるなんて……、もしかして、
「……新手のストーカーか何かか?」
「いやいやいやいやいや、それは違うよ」
「……本当か? 中学時代よくつけられていたからな……、あれが君だったのかなんていう錯覚まで覚えたのだが」
しかしあれは40代の男だったような。こんな小さいのにつけられて自分で処理出来ないような僕ではないし。
「マジで違うから、ストーカー扱いはやめてください。何が楽しくて君のストーカーなんて……」
「じゃあ、何が楽しくて君は今ここに居るんだ?」
「んー……、君と居られる事が楽しくて? いや、そんなに楽しい訳じゃないけど」
「どっちだ……。僕は全然楽しくない」
何なんだ、こいつは。自由奔放な人間とはこれまで何度も相手してきた。(大輝とか大輝とか大輝とか)
でも、こいつの自由さは何かが違う。自由奔放?いや、チャランポランと言った方が極めて正しいかもしれない。でも、それが全て『計算』のように見えるのが彼の恐ろしい所だ。
つまり、僕が何を考えているのかを向こうは分かっているように思えるが、自分は向こうの考えている事が分からない。
そんな人、お母様位だと思っていたのに。何故かこのちゃらんぽらんに上に立たれているような気がして、癇に障る。
「んー……、ねえ、今暇?」
「君は僕が暇を持て余して外に出てきたと思っているのか?」
「んー、わざわざ制服で出てきた所見るとそれは違うように思えるけどさー」
「ならわざわざ聞くな。それに君と僕は今、敵同士なんだぞ? 一秒も惜しまずに練習しなくていいのか?」
「残念ながら俺は凡人なので、休養を摂らなくちゃ生きていけないんです―。バスケは本気、だからこそ息抜きっていうのが必要になってくる」
「……まあ、確かにそれは一理あるが」
彼は本気でバスケに打ちこんでいるのだろう。ただのバスケ好きならば、バスケ自体が何かの息抜きになる。本気でバスケに打ちこんでいるからこそ、バスケに対しての息抜きが必要になるという事だ。
「って事で君だって息抜きが必要でしょ? 俺と遊ぼうよ」
「その理屈は通らない。僕には息抜きなんて必要ないし、君と違って暇という概念が存在しない」
「息抜きは必要だよー。息抜きしないからそんな頭の堅い人間になるんだよー」
「ははっ、頭がきれるとは良く言われるが、堅いなどと言われたのは初めてだな。お前は僕と違ってゆるっゆるだなと皮肉でも返しとけばいいのか?」
「まー、確かにユルユルだけれどー……。緩くなければこんな衝動的に君の元に飛んでくる事もないだろうしねー」
「分かってるじゃないか。自分の頭の緩さ具合を知って、さっさと家に帰れ、何時だと思っているんだ」
「んー、9時」
彼はスマホの画面を光らせて、時間を確認した。時計すら持ってないのか。それより、ほぼ手ぶらに見えるのだが……。
「9時だったらー、ゲーセンとかカラオケなら未だ空いてるよ―? ご飯終わってないならファミレスとかどうー?」
「……台詞がナンパにしか思えない」
「うん、ナンパしてる」
「……呆れた」
「へへー、呆れられたー」
もうなんなんだこいつは……、敦も緩いがこいつに至っては確信的な緩さ?と言えばいいのか。もう、付き合うのが面倒くさくなる。なのに、向こうのペースに無理矢理合わせられるのだから、溜まったものじゃない。
「……今日だけだぞ」
「え、まじで? 遊んでくれるの?」
「遊ばない、食事だけ。お腹すいているんだ」
「じゃあ、カラオケ行こう!」
「じゃあの意味が分からない!!」
「いやいや、カラオケだけど超美味い飯出してくれるとこがあるから! まあ高級気取りな赤司君の口に合うかどうかは分かんないけどねー」
「どうせお前との飯なんてまずいだけだから、安くで済むなら安くの方がいい」
「何気に俺酷い事言われてる?!」
「……」
三日目まで、洛山は試合が無い。
今から強豪校をチェックする必要なんて無いと思ったので、東京都内の体育施設を前もって借りていた。そういう事情によって、今日も明日もいつも通りの練習。
8時にホテルに帰り、シャワーを浴びて、僕は持ってきていた制服に着替えた。
目の前の男に会ったのは、ホテルの外に出た時だった。
数か月家に戻っていないから、これから父に挨拶をしに行こうと思っていたのだ。
「こんばんは」
「……何か用か?」
そんな冷たい顔しないでよ、と彼は笑いながら言う。
まるで僕がホテルを出る事を知っていたかのように待ち構えていた男に対して、温和な態度を取れという方がどうかしている。
「何故、僕がここに泊っている事を知っていた?」
「んー、さぁー、何でだろうねー?」
調べれば分かる事であり、逆に言うと調べなければ分からない事である。何を企んでいるのかは分からないが、仮にも赤司財閥の一人息子だ。平凡な顔した高校生であれど、用心するに越した事は無い。
「僕は忙しいんだ。用があるなら手短にして欲しい」
「……そう言われると、用があったかどうかを思い出す所から始めなくちゃいけなくなるんだけど……」
「は……? 用も無いのにこんな所に居たのか? そんな訳が無いだろ」
「いやあ、昼に君の顔を見たら嬉しくて……、頭より先に足が動いた」
訳が分からない……。コイツ馬鹿じゃないのか……、こんな奴がWCまで勝ち残っているとは……、まあどうせレギュラーではないのだろうから、試合する事はないと思うけど。そんな奴が僕の所まで尋ねてくるなんて……、もしかして、
「……新手のストーカーか何かか?」
「いやいやいやいやいや、それは違うよ」
「……本当か? 中学時代よくつけられていたからな……、あれが君だったのかなんていう錯覚まで覚えたのだが」
しかしあれは40代の男だったような。こんな小さいのにつけられて自分で処理出来ないような僕ではないし。
「マジで違うから、ストーカー扱いはやめてください。何が楽しくて君のストーカーなんて……」
「じゃあ、何が楽しくて君は今ここに居るんだ?」
「んー……、君と居られる事が楽しくて? いや、そんなに楽しい訳じゃないけど」
「どっちだ……。僕は全然楽しくない」
何なんだ、こいつは。自由奔放な人間とはこれまで何度も相手してきた。(大輝とか大輝とか大輝とか)
でも、こいつの自由さは何かが違う。自由奔放?いや、チャランポランと言った方が極めて正しいかもしれない。でも、それが全て『計算』のように見えるのが彼の恐ろしい所だ。
つまり、僕が何を考えているのかを向こうは分かっているように思えるが、自分は向こうの考えている事が分からない。
そんな人、お母様位だと思っていたのに。何故かこのちゃらんぽらんに上に立たれているような気がして、癇に障る。
「んー……、ねえ、今暇?」
「君は僕が暇を持て余して外に出てきたと思っているのか?」
「んー、わざわざ制服で出てきた所見るとそれは違うように思えるけどさー」
「ならわざわざ聞くな。それに君と僕は今、敵同士なんだぞ? 一秒も惜しまずに練習しなくていいのか?」
「残念ながら俺は凡人なので、休養を摂らなくちゃ生きていけないんです―。バスケは本気、だからこそ息抜きっていうのが必要になってくる」
「……まあ、確かにそれは一理あるが」
彼は本気でバスケに打ちこんでいるのだろう。ただのバスケ好きならば、バスケ自体が何かの息抜きになる。本気でバスケに打ちこんでいるからこそ、バスケに対しての息抜きが必要になるという事だ。
「って事で君だって息抜きが必要でしょ? 俺と遊ぼうよ」
「その理屈は通らない。僕には息抜きなんて必要ないし、君と違って暇という概念が存在しない」
「息抜きは必要だよー。息抜きしないからそんな頭の堅い人間になるんだよー」
「ははっ、頭がきれるとは良く言われるが、堅いなどと言われたのは初めてだな。お前は僕と違ってゆるっゆるだなと皮肉でも返しとけばいいのか?」
「まー、確かにユルユルだけれどー……。緩くなければこんな衝動的に君の元に飛んでくる事もないだろうしねー」
「分かってるじゃないか。自分の頭の緩さ具合を知って、さっさと家に帰れ、何時だと思っているんだ」
「んー、9時」
彼はスマホの画面を光らせて、時間を確認した。時計すら持ってないのか。それより、ほぼ手ぶらに見えるのだが……。
「9時だったらー、ゲーセンとかカラオケなら未だ空いてるよ―? ご飯終わってないならファミレスとかどうー?」
「……台詞がナンパにしか思えない」
「うん、ナンパしてる」
「……呆れた」
「へへー、呆れられたー」
もうなんなんだこいつは……、敦も緩いがこいつに至っては確信的な緩さ?と言えばいいのか。もう、付き合うのが面倒くさくなる。なのに、向こうのペースに無理矢理合わせられるのだから、溜まったものじゃない。
「……今日だけだぞ」
「え、まじで? 遊んでくれるの?」
「遊ばない、食事だけ。お腹すいているんだ」
「じゃあ、カラオケ行こう!」
「じゃあの意味が分からない!!」
「いやいや、カラオケだけど超美味い飯出してくれるとこがあるから! まあ高級気取りな赤司君の口に合うかどうかは分かんないけどねー」
「どうせお前との飯なんてまずいだけだから、安くで済むなら安くの方がいい」
「何気に俺酷い事言われてる?!」
「……」
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