※Attention※
・捏造。
・物語が進むにつれて、タイトル詐欺である。
・赤司君が多重人格設定。

「実は俺、心が読めるんだ」
もし俺がそれを誰かに告げたとしても、誰一人として本気にはしてくれない。それが当然の反応であって、逆に何の疑いも無しに信じられては俺が困るだけだ。

恋愛ソングや少女漫画で「貴方の気持ちが読めればいいのに」と呟いている事があるけど、俺には全く持って理解できなかった。だって、心は自分一人だけの貴重な空間であって、誰にも邪魔されない唯一の逃げ場であるのだから。教室に一人で居たって、壁を取り除いてしまえば一人ではなくなる。でも心だけは、自分で曝け出さない限り、誰にも踏みいれられる事はない安全な場所なんだ。
――――俺はそんな場所に土足で上がれる人間なのである。

俺はこの16年間一度もこの事を口にしていない。幼少の頃は『心が読める』というのが俺だけなんて知らなくて、これが当たり前だった。たまに周りに不快な顔をされるのが、俺は不思議で堪らなかったし、そんな顔をされる度に自分を否定されているような気がして、一時期は心を閉ざしてた事もある。段々歳を重ねて行くにつれて、自分が普通では無い事に気付き、いつからか他人の心に何が見えても触れる事をしなくなった。

どいつもこいつも、一つや二つくらい人には言えないようなモノを抱えている。俺の物差しで測ったものだから、本人にとってはもっと大きいものだとなんだろうけど、中には笑えないような悩みを抱えて、毎日笑って暮らしている奴だっている。何も悩んで無さそうに見える小金井先輩だって本当は何かを抱えていて、黒子や火神だって、いつも見えない何かに押しつぶされそうになりながらも頑張っている。それを知って尚、俺は何も見えてないフリをして今まで生きてきたのだ。だって、助けたくても助ける事なんて俺には出来ないのだから。中途半端に踏み込むのは相手を傷つける事にしかならない。

そうやって、いつの間にか普通である事を演じるのが日常になっていたある日、俺は不思議な人に出会った。
闇のように黒い部分がなければ、光に照らされた部分も無い、まるで心が空っぽのような人間に。

 高校1年生の冬。
WC開会式、俺は黒子の付き添いで、キセキのメンバー全員に強制遭遇する事になった。
あとから聞けば、キセキ全員が赤司に呼ばれていたのだと言う。

「すまない、待たせたね」

その時は至って普通な登場をしたけど、俺には彼が人間離れした何かにしか見えなかった。だって彼からは何も聞こえないのだ。申し訳ないという感情も、もう一度かつてのメンバーに会えて嬉しいという感情も、何一つとしてその時に聞こえてくる事はなかった。
まるで時間が止まったかのように一人、その場に立ちすくんでいて、彼が俺に退ける事を願った時だって地面と足が一体化してるかのように動けなかった。
やがて火神が来て、赤司は凄い凶行に出たけど、その時だって彼からは何も感じ取れなかった。無心であんな事をやってしまう人なんて普通居ないから、やっぱり彼は特別なのだと思う。
 聞こえないという事は、聞こえてしまっているという罪悪感を感じずに接する事が出来る。それだけで俺は彼に魅力を感じた。
 WCの最中も、あの透き通った赤髪にすれ違う度に俺は、目に焼き付けるように彼を見ていた。もちろん、後ろ姿だけど。
 大会が終わってからも、俺は彼の事を心の何処かで描き続け、1日たりとも彼の事を考えなかった日は無い。

                            ☆

 チャンスはいつだって突然訪れてくる。その時だって例外ではなく、偶然という衣を着て、何食わぬ顔で俺の目の前に現れたのだ。

 俺達は学年がひとつ上がり2年になり、先輩達は当然みんな3年生になった。火神が無事に2年生になれるかについては本気で心配したけど、先輩達や黒子の熱心な指導によって奇跡的に進級する事が出来たみたいだ。人って意外にも気合いでどうにか出来る部分を多く持っているらしい。
 
 夏休み、俺達は去年同様、合宿をする事になった。
 海での合宿は、一層ハードな練習内容になって、1日目から俺達はクタクタになるまでバスケに熱中していた。これが10日も続くと考えると、ぶっちゃけ吐きそうだ。
 二日目の朝、目を擦りながら俺はトイレに向かっていた。今思えば、よくあんなあり得ない寝ぐせで廊下を歩いてたなと思う。予約時点ではほぼ誠凛の貸切状態と聞いていたけど、全く一般客が居なかったわけではない。でも、まだ普通の客にすれ違うだけだったのなら、恥ずかしさを自覚するだけで済む。
しかし、そこに現れたのは俺が予想もしていなかった人達だった。
 フロント近くを通った時に見えた水色と白のジャージに、思わず寝ぼけた目を擦って瞬きを繰り返した。
 長身のいかつい男に、サラサラな黒髪に下まつ毛、大きな猫目……、そして赤毛にビ―玉のように透き通った、赤と金のちぐはぐな瞳。

「赤司……君?」

 気付けば俺は彼の名前を呟いていた。
 赤司の耳が微動したのはきっと気の所為だろう。誰一人として俺の存在を認識しようともせずに、俺の目の前をゾロゾロと通って行った。
 当然俺は、彼らが通った後もその場に立ちすくんでいた。
 だってあの赤司がこの合宿所に居るのだ。話した事も無いけど、それでも俺はこの半年間、この赤司に会いたくて仕方が無かったのだ。そんな赤司にこんな所で会えたのは、偶然なんかじゃなく、奇跡のようにも思えた。
 
                                        ☆

 夢オチなのではないかと本気で疑っていたが、確かにこれは現実だったみたいだ。昼には監督の手により、当然のように合同練習が企画されていた。監督は去年のWC後、実渕さんと仲良くなり、数回連絡を取り合っていたらしい。すっかり笑顔で話す間柄になっていたみたいで、木吉先輩や日向先輩の空気が少し黒いものになっていた。……何だかんだ言って、二人とも監督に惹かれているらしい。二人の心の中で実渕さんは何回抹消されているのだか……、これについてはもう考えない事にしよう。俺の先輩の心が黒過ぎて怖い。

「赤司君、お久しぶりです」

 俺の隣で水分補給をしていた黒子が、近くを通った赤司に声をかけた。
 突然呼ばれたその名前に肩をびくつかせつつ、俺は平静を装ってもう一度勢い良く水を喉に通した。
赤司と黒子が会話をし始めた事によって、少し居た堪れない気分になったので、俺は河原達の所へ向かい自然と会話に交った。
久しぶりの再会をしている赤司と黒子の会話が気にならない訳ではないけど、この距離じゃ心の声も聞こえない。少し惜しくも思うけど、あそこで立ち止まっているのも無理があるしな。
 
「降旗君」
「ふおっ?!」

 赤司と話していたはずの黒子の声が背後からして、思わず素っ頓狂な声をあげた。もう1年半くらい一緒に居るから、この感じは久しぶりだ。

「……イキナリすいません。あの、降旗君に頼みたい事があるんですが」
「あ、うん! えっと、何?」
「降旗君テーピング得意ですよね?」
「得意かどうかは分からないけど……」

心の中で黒子が『大丈夫かな……』と心配しているのが分かるけど、一体何が目的なんだろ?

「いえ、得意だと思いますよ。降旗君に任せた時が一番安定していて、動きやすいです。そのお陰でいつも助かってますから」
「そ、そう? ありがとう」
「ですから……、降旗君、赤司君のテーピングをしてくれませんか?」
「げっほっげほっげほ」
「え……、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……うん」

 『降旗君、そんなに赤司君の事嫌いなのでしょうか……。出会いが出会いでしたから、仕方ないのかもしれませんけど……』なんて思っているみたいだけど、別に赤司の事を嫌いな訳では無い。そりゃあ、おかしい人だとは思っているし、好き……かどうかは分からないけど、俺は彼の事を知りたいと思っている。これは、黒子がくれた絶好の機会なんだ。

「え、っと、別に俺がするのは全然構わないけど、何で俺? 自分のチームメイトとかに頼んだ方が早くない?」
「確かに……そうですよね……。でも、洛山は主戦力の方々しか来てないみたいですし、普段テーピングを施してくれる人達は居ないのかもしれません」
「成程……、それで赤司……君、は何処に?」
「体育館の入口の方で待ってるみたいです。早く行った方がいいと思いますよ」
「先に言えよっ!……了解」
「すいません、ありがとうございます」

                      ☆

「……えーっと……」

 勢いで来てはみたものの何て話しかければいいんだろう? テーピングしに来ました……とか……?  
 他の人と話す時は、相手がどんな言葉が欲しいのか心の声で分かる、でも、この人の場合心の声が分かんないから、何をどう言えばいいのか……。

「ああ、君か……」
「あ、はい、俺ですいません……?」
「? 何で謝るんだ? 僕がお願いして君に来てもらったんだろう。忙しい所、すまない」
「いえ、滅相もございません……?」
「何でさっきから疑問形なんだ……。とりあえず、はい」

 赤司は持参してきたテーピング用のテープを俺に渡した。俺もちゃんと持ってきてはいたんだけど、渡された方を使うべきなんだよな……と思いながら受け取った。赤司なら、「テーピングしろ」みたいな命令口調で言ってくると思ってたから、『お願い』という単語が彼から聞けたのは凄く意外だった。

「えっととりあえず、階段にでも座ってくれないかな?」
「ああ」

 体育館入口から外に出て、体育館に上がる4段しか無い小さな階段に赤司は座った。彼の足は、俺が羨ましくなるほど、筋肉が綺麗についていて、女の子のように白い。そんな足を恐る恐る掴み、テーピングを施し始めた。
同じバスケをやっている身なのだから、共通の話題なんていくらでもある。でも、ほとんど試合にも出ていない俺が、チ―ト並みに強い赤司と、同等にバスケの話を出来るとは到底思えない……。だから俺は黙々とテーピングをしているんだけど、彼は今どんな顔をして、心の中で何を思っているんだろ?
 結局一言も会話が無いまま、テーピングを施し終え、俺は彼の前に立ちあがった。

「これで、大丈夫?」
「ああ。自分ではここまで出来ないからな……、テツヤが太鼓判を押すのも分かる。感謝してるよ」
「う、うん、どういたしまして」

 しばらく見つめ合ったけど、それ以上言葉が出てこなかったので、「じゃ、ね」と言って踵を返そうとした。

「待って」

そこで赤司は俺の腕を掴み、抑揚の無い声で呼び止めた。
彼は多分、ほぼ初対面も同然の相手の側に居る事に慣れていないんだと思う。その顔には確かに困惑の色が浮かんでいたし、俺の腕を掴む白い手は少し汗ばんでいた。『どうしよう……』とか、『何て言えばいいんだろう……』とかいう心の声が聞こえてきてもいいはずなのに、やっぱり彼の心の声だけは届かない。

「休憩時間はあと10分程度残っている……、少しだけでいいから僕と話していかないか?」

 ……そんな少し不安そうな顔でお誘いを受けて、「ヤダ」なんて言える奴がこの世に存在するなら、俺はそいつの人格を疑うよ。
 驚きを隠せずに硬直している俺を見て、赤司は申し訳なさそうに、「ごめん、強制した訳ではないんだ。自分の休憩時間なんだから君の好きに過ごすといい」と言って立ち上がった。やばい、ちゃんと口開かなきゃ……、絶対勘違いされている……。

「ま、待って、俺も……、赤司君と話してみたいと思って……たから」

 本心からの言葉をボソボソ言うと、赤司は驚いたように目を丸くしてこっちを見つめた。そして温かい笑顔で、すぐに「ありがとう」と俺に言った。

 再び階段に腰をかけた。今度は俺も彼と同じ段に腰を下ろしたけど、ある程度距離をとっておかないと、心臓が持たないような気がしたので、赤司とは1m程間隔を空けて座った。何気なくとった行動だったけど、赤司はそんな俺の様子を見て、少し自嘲気味に「僕、もしかして嫌われてる?」と問いかけてきたので、俺は精一杯首を横に振った。

「赤司君は……、チー……えーっと、バスケの才能にも恵まれていて、これは黒子から聞いた事だけど、他の分野でも誰よりも飛びぬけているらしいし……。何か近づいてはいけないのかな……って」
「どうして? 確かに僕は何事にも秀でているかもしれないけど……、それでも君と同じ、高校生だよ」

 赤司は少し腰を浮かせて、50cmくらいこちらに近づいて再び腰掛け直した。
 自分で秀でていると言って嫌みに聞こえないくらい天才な彼だ。顔だってそりゃ整っている。だから、近づきたいけど、近づけなかったというのに……、向こうから歩み寄られてしまっては、元も子もない。それこそ、そんな事を容易くやってのける彼の所為で、心臓が壊れそうな程音を立ててるじゃんか。

「君は確か、僕と同じPGの選手だったよね?」
「うん。……って言っても、試合には未だほとんど出してもらった事無いんだけどね……」
「出してもらう……か。でも、君は去年のWC、とても大事な所で出ていたよね?」
「え、知ってたの?」
「当たり前だろう。いくら勝つ事が当たり前だと思っていても、相手選手のチェックくらいしている。君が決勝に出てくる可能性だってあったんだから、当たり前だろう」
「そ、そか……」

 対戦選手の把握は確かに大事な事で、当たり前なんだけど……、それでも俺は彼が少しでも俺の事を記憶していた事に嬉しさを感じていた。

「……それに、勝つ事が当然だった僕に、君達は勝った。僕の中に定着していた常識を破ってくれたんだ。そんな君たちの事を後になって調べなかったわけがないだろう?」

 ああ……、そういう事か。だから、普通だったら桃井さんみたいなデータ収集のスペシャリストじゃないと調べすらしないような、モブの俺の事も覚えていたのか。

 去年のWC決勝。洛山VS 誠凛
 当然、常勝を掲げてきた洛山に楯突くのは簡単では無かった。
 最初の10分は赤司の天帝の眼のおかげで、俺の学校は0点に抑えられ、彼らには12点も取られていた。普段の洛山なら最初は相手を弄ぶかのように、自分たちの力を抑えて戦うやり方だったけど、決勝では最初から飛ばしていた……と思ったけど、後半はもっと凄かったから、あれでも手を抜かれていたんだろう。予想外の洛山の攻撃、防御に翻弄され、俺達の闘志は最初から凍りそうになっていた。
 でも、そこからの誠凛の追い上げは凄かった。それこそ、第1クォーターでは手を抜いていたのではないかと客席がざわつく程であった。火神の野生が発揮され、それに伴って先輩方や黒子も洛山をおしていった。もちろん、それからも一筋縄じゃいかなかったわけだけど、第4クォーターラスト、同点に追いつき、延長戦に持ち込む事が出来た。
 延長戦。試合は黒子のパスに繋げられた、火神のダンクでブザーを切った。

 誠凛の優勝……、それはとても嬉しかったけど、その後はそれどころじゃなかった。あの後赤司は、目を見開きながら大粒の涙を零し始め、狂ったように笑いながら自分の眼球に手をかけたのだ。もちろん、洛山メンバーと黒子に止められ事態はとりあえず収まったけど、それでも俺の心の中にはいつだってあの時の狂い果てた赤司が残る事になった。
 もちろん、今もあの時の赤司の事を忘れたりなんてしていない。

「全国レベルの練習をこなしているんだ。戦力的にはそこら辺にいる、同世代のバスケット選手と肩を並べる事が出来るだろう。でも、僕は君の事が少し気になっているんだ」
「へぇ……って、え?!」

 そこら辺に居る人達と同じくらいのレベル……、だけど、俺の事が気になる?

「微かだけど、君は僕と同じ匂いがするんだ」
「え、え? えっと、同じ柔軟剤使ってるのかな?」

 俺、ソフ●ンなんだけど。赤司の事だからどうせ赤司は高級な柔軟剤使ってるんだろ?
 彼は不思議そうに俺を見てから、クスクスと笑いを零した。

「……君は面白い事を言うね。匂いっていうのは鼻で嗅ぐものの事を言ってるのではなくて、雰囲気というか……」
「あ、そういう事か……。ご、ごめん……、馬鹿で」
「ふふっ、いいよ。とりあえず、君には何か不思議な能力がありそうな気がしたから、少し気になっていたって事。分かる?」
「言ってることは理解は出来るけど、俺は見た目通り、何に関しても凡人以上にも以下にもなれない人間だよ。赤司君が言ってるような能力なんて……――」
 
 そんなもの『ない』と言おうとしたのに、次が出てこない。
 俺にもある。自分の他とは違う能力がひとつだけ。彼と話している内に、いつの間にか、俺は普通の人のような気になってしまっていた。

「僕の憶測にすぎないから、君の言うとおりただの凡人かもしれないけどね」
「……いや、強ち間違ってないかも」

 赤司は少し驚いた顔をした後、「へぇ」といつも通りの意味深な笑顔を俺に向けた。

「その能力、この合宿中に見れるといいな」
「……バスケにも使えるけど、バスケの能力じゃないし、見えない反則みたいなものだから」
「難しいね……、見えないって事は僕にも分からないってことか……」
「いや、赤司君は俺を自分と同じ匂いがするって言ってたから、多分その内分かってしまうんじゃないかな」

 もし、俺が赤司君の心が読めたら。もう既に俺のこの力についてはバレていただろう。読まれた事が無い彼がほぼ答えを出してしまっているんだ。彼は、俺の僅かな動きや言動で、普通では無い俺に気付く。黒子の能力を見極めた彼だから、決しておかしい話ではないけど。

「ふーん、楽しみだよ。僕と似た能力を持つ人と試合した事は無いからね」
「俺も楽しみだけど……、ちょっと赤司君とはやりたくないかなぁ……。身体能力なら俺の方が確実に下回っている訳だし」
「そうかな? 僕は君よりキャリアが長いから、その分の強さはあると思うけど、君は始めてからまだ1年半しか経っていないんだろう? それにしては上達が早い方だと思うよ」
「本当? ……そっか。最近、本当に上手くなってんのかなぁって思い始めてたから、凄い嬉しいかも」
「それは良かった。まぁ、ライバルを喜ばせても僕の得にはならないけどね」

 さっぱりした話し方や、相手を自然と喜ばしたりする所、遠くから見てるだけでは分からない彼の事が見えてきたような気がする。でも、これは誰もが知ってる彼の事。普通の人達はどうやって、相手の内面を知っていくんだろ?

「そういえば、君はテツヤと仲良いのかい?」
「テツヤ……、あぁ、黒子? それなりに仲良いと思うけど……。休日遊ぶ事は少なくても、放課後たまに一緒に帰ったりする程度には。赤司君は中学の時、黒子と仲良かったの?」

 赤司との会話に慣れてきて、無邪気にも俺は聞いてしまった。その時の赤司はまるで呼吸を止めているかのように制止していて、俺は彼の顔を覗き込んだ後、軽く後ろにのけぞってしまった。

「赤司……君?」
「あ……、ごめん。僕は……テツヤと仲良かったのかな……?」
「? 黒子はよく俺に赤司君の話してくれるよ。だから、少なくとも黒子は赤司君と仲良いと思ってるだろうけど……」
「そうか……、ちなみにテツヤは君に僕のどんな話をするんだい?」
「んー……、何の他愛も無い話ばっかだからあんまり覚えてないけど……。たとえば、赤司君は、金持ちで少し感覚がずれてて困ったとか、ハードな練習で生死を彷徨っている時にハー●ンダッツを買ってきてくれたとか、えーっとあとはー」
「……本当にどうでもいい話ばっか言ってるんだな、テツヤは」
「うん、確かに……。でも、黒子は赤司君の話する時は楽しそうだからさー。本当に中学時代、赤司君の事大好きだったんだなーって思う」
「……そっか、嫌われてると思ってたからそうならいいんだけどね」

 少しだけ嬉しそうな声色で呟く彼の横顔は、どこか寂しそうで、触れたらアイスのように溶けてしまいそうだった。
 彼の心は「寂しい」とも「嬉しい」とも言ってくれないけど、その表情で彼の気持ちを汲み取る事くらいは出来る。赤司が黒子の事を話してる時の顔は、俺が赤司の事を考えている時と同じ顔だ。彼が自分の気持ちに気付いて居るかどうかは分からないけど、きっとそういう事なんだろうなぁ……。

「赤司君、そろそろ休憩時間も終わっちゃうから戻ろうか?」
「ああ、僕の話に付き合ってくれてありがとう」
「ううん、俺も楽しかったから……、こちらこそ」

 ここで、「また話せたら嬉しいな」なんて言えたらいいのに。本当……、俺ってへたれだよな。
 彼が体育館に入っていくのを見てから、俺も足を進めた。やっぱり、隣に居るより遠い所から見てる方が俺は好きなのかもしれない。

→②
 
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