Q.眠りから目が覚めた時、もし、目の前に好きな人の顔があったら?
「うん……、これは夢だ」
A. とりあえず、夢だと思い込む。
「残念だが、現実だ」
「で、ですよねー……」
「君は僕のベットで何をやっているんだい?」
俺に覆いかぶさるかのように四つん這いの格好をしながら、冷静に今の状況に対しての疑問をぶつけてくる赤司。出来れば俺も、どうして君がそんな格好で俺の目覚めを出迎えてくれたのかを聞きたいんだけど。
「無言を貫いた場合、僕はこの宿舎の管理人に「寝てました」
「そんなのは見て分かる。真面目に答えてくれないか。目が覚めたら自分の横でほとんど面識のない奴が寝てたなんて、君だって不可解な気分になるだろう?」
「す、すみませんでしたっ……! でも、簡単に説明できるようなものでは無くて……、何処から説明すればいいのか……。とりあえず、話をする前にちょっとどいてくれると嬉しい……」
「ああ……、すまない」
赤司はベットに腰をかけ、俺はベットから上体を起こしてその場に正座をした。
この赤司にとって俺は特別とは程遠い存在だって事くらいは分かってつもりだった。でも、この間10分近く話したというのに、俺を『ほとんど面識の無い奴』ってカテゴリーに入ってる事は、悲しかった。
この時赤司には、俺が赤司に説明を求められて緊張しているように見えたんだろう。彼は小さくため息を吐いて、
「別に怒ってるわけじゃないから、簡単に説明してくれればいい」
と呆れたように促した。
でも、簡単にと言われましても、あの状況を何処から何処まで説明すればいいのやら……。赤司じゃない赤司である、征君に海で会って? 彼の面倒を見たりTシャツ借りたりしてたら、半ば無理やりベットに入らされた?
――なんて説明してどうするの。今の赤司は多分征君の記憶を持ってないみたいだし、さらに混乱させるだけじゃん。
「――成程」
「……へ?」
「何となく、理解できた」
「え、あ、俺、声に出してた?」
「……ああ」
「ごめん、無意識で……」
「謝る必要は無い。というより、謝るのは僕の方だ。僕じゃない僕が、君に迷惑を掛けたんだろう?」
赤司はまるで当たり前かのように、『僕じゃない僕』つまり征君の事を認識していた。赤司の心の糸はどういう風に絡まっているんだろう? 征君は赤司の事を知っていて、それで赤司が許してくれたから自分が表に出てこれてるとまで言っていた。でも、赤司は昨日の事を覚えていないし、征君の事だってほとんど知らないようだ。
「全然、迷惑だとは思ってないけど……、って、あ!俺、赤司君に、服貸してもらってたんだった」
「ああ、どおりで見覚えがある服だと……」
「本当にごめんっ! 洗って返すから、今日一日貸してくれないかな……。駄目だったら今すぐ返すから!」
「いや、着ててくれて構わない」
「ありがとう。明日返すね」
征君の言ってた通り、赤司は俺が征君に貸してもらった服について何も咎めなかった。事情を知った上で、『今すぐ返せ』なんて言われる事はないだろうと確信していたけど。
「ついでに聞いておくが、僕は何をする為に夜中の海なんかに浸かってたんだ?」
「んー、特にこれと言った理由は無いみたいだったよ。別に自殺しようとかそういう雰囲気ではなかったし……。ただ、海で遊びたかっただけだとか何とか」
「あいつは……、何を考えているんだか」
「俺にも良く分かんない。でも別に征君は赤司君を困らせたかった訳ではないと思うから……ってあ」
赤司の前で征君とか呼んじゃった……。この赤司の事を指してるわけじゃなくても、征君だろうが赤司君だろうが、どちらも赤司征十郎な訳で。
赤司は目をパチクリして俺の方を見つめてきた。呼びなれない名前を聞いて、動揺しているのだろう。
「征君?」
「えーっと、あのー、それは赤司君の事じゃなくて、あー」
やばい、冷や汗やばい。笑顔が引きつる。
こっちの赤司に征君は無いよ……。
「……あっちの僕の事は征君なんて親しげに呼ぶのに、僕の事は赤司君って呼ぶんだな。何だか僕があっちの僕に負けたような気がして嫌なんだが」
「え……っと、赤司君も、征君って呼ばれたいの?」
この時の赤司の睨み方は、いつかと同じくらい怖かった。プライドの高い赤司に「征君」なんて呼んだ日には、俺の命は無いだろう。
あっちの征君にヤキモチでも焼いてるのかと少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。
「そう呼ばれるのも嫌だけど……、苗字に君付けされるのはあまり好きじゃない」
昨日、征君も「赤司君」って呼ばれるのが嫌だって漏らしていたっけ? 赤司も征君と一緒の事思っていたのか。何か特別な理由でもあるのか、それともたまたま二人の意思が合致していたのか。
「同級生なんだから、これからは呼び捨てにしていいよ」
「え゛っ……」
「何だその反応は……、別に嫌ならそのままでいいんだが」
「い、嫌って訳じゃないけど……何かさ、やっぱり赤司君相手に呼び捨ては……」
「君は僕を一体何だと思っているんだ。別に征十郎って呼んでくれても構わないけど」
「そういう事じゃなくっ……、ていうかそれはもっとハードル高いし!」
「じゃあ、普通に赤司って呼べばいいじゃないか。名前呼ぶだけが何でそんなに難しい?」
赤司本人が居ない所でなら、むしろ呼び捨ての方が呼びやすい。だけど、本人を目の前にすると、どうしても、一線を越えた親しさを持つ事が出来なくなってしまう。この気持ちを赤司に理解してという方が難しいけど。
「で、でもさ、黒子だって、赤司君の事赤司君って呼ぶよね?」
「あいつはあいつ。君は君」
「えー……」
「ちなみに言っておくけど、僕への返事に、『はい』以外無いからね?」
意地でも赤司君呼びをやめさせたいのかこの方は……。ここは俺が折れる以外の選択肢が無さそうだ。この人といい、征君といい、変な所で我が強いんだから。
「うー、分かった。……赤司」
「うん」
モブ男から呼び捨てされただけでそんな嬉しそうな顔しないでよ。近距離でその頬笑みは犯罪だ。しかもベットの上で。俺がヘタレじゃなかったら完璧に襲ってたからね?
「そ、そういえば、今何時?」
どうにかしてこのやりきれない気持ちから逃れようと、不自然に話題を逸らす。
赤司はカバンから携帯を取り出し、「5時56分」と親切に教えてくれた。
「そっか……、あと4分で起床時刻だ」
「誠凛も僕達と起床時刻は同じなんだな」
「あ、洛山も? じゃあ、支度してそろそろ出なきゃだね」
「ああ」
「そ、それじゃ、俺、部屋戻るね。色々ありがとう」
「こちらこそ」
部屋に俺が居ない事、みんな心配してるかもしれない。早く戻らなくちゃ。
少し急ぎ足で部屋を出ようとした時、「光樹」と呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。チラッと赤司君を振りかえると、赤司はこちらを見てニコっと笑い、
「君の体温は心地よかった」
と、俺の理性を危うく崩壊する程の爆弾発言を放り投げてきた。
もちろん、理性が本当に崩壊する前に、すぐさま部屋を出たけど。
→④
「うん……、これは夢だ」
A. とりあえず、夢だと思い込む。
「残念だが、現実だ」
「で、ですよねー……」
「君は僕のベットで何をやっているんだい?」
俺に覆いかぶさるかのように四つん這いの格好をしながら、冷静に今の状況に対しての疑問をぶつけてくる赤司。出来れば俺も、どうして君がそんな格好で俺の目覚めを出迎えてくれたのかを聞きたいんだけど。
「無言を貫いた場合、僕はこの宿舎の管理人に「寝てました」
「そんなのは見て分かる。真面目に答えてくれないか。目が覚めたら自分の横でほとんど面識のない奴が寝てたなんて、君だって不可解な気分になるだろう?」
「す、すみませんでしたっ……! でも、簡単に説明できるようなものでは無くて……、何処から説明すればいいのか……。とりあえず、話をする前にちょっとどいてくれると嬉しい……」
「ああ……、すまない」
赤司はベットに腰をかけ、俺はベットから上体を起こしてその場に正座をした。
この赤司にとって俺は特別とは程遠い存在だって事くらいは分かってつもりだった。でも、この間10分近く話したというのに、俺を『ほとんど面識の無い奴』ってカテゴリーに入ってる事は、悲しかった。
この時赤司には、俺が赤司に説明を求められて緊張しているように見えたんだろう。彼は小さくため息を吐いて、
「別に怒ってるわけじゃないから、簡単に説明してくれればいい」
と呆れたように促した。
でも、簡単にと言われましても、あの状況を何処から何処まで説明すればいいのやら……。赤司じゃない赤司である、征君に海で会って? 彼の面倒を見たりTシャツ借りたりしてたら、半ば無理やりベットに入らされた?
――なんて説明してどうするの。今の赤司は多分征君の記憶を持ってないみたいだし、さらに混乱させるだけじゃん。
「――成程」
「……へ?」
「何となく、理解できた」
「え、あ、俺、声に出してた?」
「……ああ」
「ごめん、無意識で……」
「謝る必要は無い。というより、謝るのは僕の方だ。僕じゃない僕が、君に迷惑を掛けたんだろう?」
赤司はまるで当たり前かのように、『僕じゃない僕』つまり征君の事を認識していた。赤司の心の糸はどういう風に絡まっているんだろう? 征君は赤司の事を知っていて、それで赤司が許してくれたから自分が表に出てこれてるとまで言っていた。でも、赤司は昨日の事を覚えていないし、征君の事だってほとんど知らないようだ。
「全然、迷惑だとは思ってないけど……、って、あ!俺、赤司君に、服貸してもらってたんだった」
「ああ、どおりで見覚えがある服だと……」
「本当にごめんっ! 洗って返すから、今日一日貸してくれないかな……。駄目だったら今すぐ返すから!」
「いや、着ててくれて構わない」
「ありがとう。明日返すね」
征君の言ってた通り、赤司は俺が征君に貸してもらった服について何も咎めなかった。事情を知った上で、『今すぐ返せ』なんて言われる事はないだろうと確信していたけど。
「ついでに聞いておくが、僕は何をする為に夜中の海なんかに浸かってたんだ?」
「んー、特にこれと言った理由は無いみたいだったよ。別に自殺しようとかそういう雰囲気ではなかったし……。ただ、海で遊びたかっただけだとか何とか」
「あいつは……、何を考えているんだか」
「俺にも良く分かんない。でも別に征君は赤司君を困らせたかった訳ではないと思うから……ってあ」
赤司の前で征君とか呼んじゃった……。この赤司の事を指してるわけじゃなくても、征君だろうが赤司君だろうが、どちらも赤司征十郎な訳で。
赤司は目をパチクリして俺の方を見つめてきた。呼びなれない名前を聞いて、動揺しているのだろう。
「征君?」
「えーっと、あのー、それは赤司君の事じゃなくて、あー」
やばい、冷や汗やばい。笑顔が引きつる。
こっちの赤司に征君は無いよ……。
「……あっちの僕の事は征君なんて親しげに呼ぶのに、僕の事は赤司君って呼ぶんだな。何だか僕があっちの僕に負けたような気がして嫌なんだが」
「え……っと、赤司君も、征君って呼ばれたいの?」
この時の赤司の睨み方は、いつかと同じくらい怖かった。プライドの高い赤司に「征君」なんて呼んだ日には、俺の命は無いだろう。
あっちの征君にヤキモチでも焼いてるのかと少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。
「そう呼ばれるのも嫌だけど……、苗字に君付けされるのはあまり好きじゃない」
昨日、征君も「赤司君」って呼ばれるのが嫌だって漏らしていたっけ? 赤司も征君と一緒の事思っていたのか。何か特別な理由でもあるのか、それともたまたま二人の意思が合致していたのか。
「同級生なんだから、これからは呼び捨てにしていいよ」
「え゛っ……」
「何だその反応は……、別に嫌ならそのままでいいんだが」
「い、嫌って訳じゃないけど……何かさ、やっぱり赤司君相手に呼び捨ては……」
「君は僕を一体何だと思っているんだ。別に征十郎って呼んでくれても構わないけど」
「そういう事じゃなくっ……、ていうかそれはもっとハードル高いし!」
「じゃあ、普通に赤司って呼べばいいじゃないか。名前呼ぶだけが何でそんなに難しい?」
赤司本人が居ない所でなら、むしろ呼び捨ての方が呼びやすい。だけど、本人を目の前にすると、どうしても、一線を越えた親しさを持つ事が出来なくなってしまう。この気持ちを赤司に理解してという方が難しいけど。
「で、でもさ、黒子だって、赤司君の事赤司君って呼ぶよね?」
「あいつはあいつ。君は君」
「えー……」
「ちなみに言っておくけど、僕への返事に、『はい』以外無いからね?」
意地でも赤司君呼びをやめさせたいのかこの方は……。ここは俺が折れる以外の選択肢が無さそうだ。この人といい、征君といい、変な所で我が強いんだから。
「うー、分かった。……赤司」
「うん」
モブ男から呼び捨てされただけでそんな嬉しそうな顔しないでよ。近距離でその頬笑みは犯罪だ。しかもベットの上で。俺がヘタレじゃなかったら完璧に襲ってたからね?
「そ、そういえば、今何時?」
どうにかしてこのやりきれない気持ちから逃れようと、不自然に話題を逸らす。
赤司はカバンから携帯を取り出し、「5時56分」と親切に教えてくれた。
「そっか……、あと4分で起床時刻だ」
「誠凛も僕達と起床時刻は同じなんだな」
「あ、洛山も? じゃあ、支度してそろそろ出なきゃだね」
「ああ」
「そ、それじゃ、俺、部屋戻るね。色々ありがとう」
「こちらこそ」
部屋に俺が居ない事、みんな心配してるかもしれない。早く戻らなくちゃ。
少し急ぎ足で部屋を出ようとした時、「光樹」と呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。チラッと赤司君を振りかえると、赤司はこちらを見てニコっと笑い、
「君の体温は心地よかった」
と、俺の理性を危うく崩壊する程の爆弾発言を放り投げてきた。
もちろん、理性が本当に崩壊する前に、すぐさま部屋を出たけど。
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